2017-01-01から1年間の記事一覧
この道をムスカリ咲くよ踊るほどさみしい春もムスカリ咲くよ 吉田 典 P112 「踊るほどさみしい」という表現がとても印象的。 春だからわくわくするような気分になるかというとそうでもなく むしろソワソワして寂しいくらいという。 ムスカリは葡萄の房みたい…
被ったり脱いだりぱたぱた煽いだり楽しくなってくるヘルメット 阿波野 巧也 P60 働くようになって、ヘルメットを被ることがあるらしい。 現場の詳しい状況は一連からはあまりわからないけど ヘルメット、という無骨なアイテムを詠みこんで ちょっとコミカル…
はつなつの薄いカーディガンくたくたと椅子の背にありときどき落ちる 小林 真代 p29 夏用のカーディガンなので、かなり薄手だと思う。 もう着込んでいてくたくた感のあるカーディガン、 椅子の背にかけているけど、たまにすべり落ちるんだろう。 生活のなか…
まだ暑いよー・・・ 塔8月号から見ていきます。 夏つばき地に落ちておりまだ何かに触れたきような黄の蕊が見ゆ 吉川 宏志 P2 木の下に落ちてもまだ存在感のある夏つばき、 たっぷりとした筆のような黄色の蕊は印象的です。 「まだ何かに触れたきような」が興…
吉川宏志氏の『夜光』は第二歌集。 年齢としては20代後半にあたります。 若くして結婚し、父親になったことで子供の歌が増えてきます。 住んでいる京都、ふるさとの宮崎、 家庭、仕事、作者をとりまく環境が 静かに描かれています。 ■父であることの不可思議…
お母さん東京は胡麻鯖食べんとよやけん久々に食べたいっちゃん 赤木 瞳 P203 胡麻鯖は福岡の郷土料理らしいんですけどね。 一首のなかでたっぷりと使われた方言がとても魅力的。 一首がまるごと母親に食べたいものをリクエストするときの セリフになっていて…
花の図鑑、ではなくて葉の名前知るためだけの図鑑がほしい 石松 佳 P160 花の図鑑はいろいろあるけど 葉に注目しているところがとてもいいと思います。 「花の図鑑、ではなくて」の読点でちょっと目を引いて、 そのまま次の内容へと引っ張っていきます。 ど…
蟻一匹見つめつづけて愛せるか 隣には君がゐて春嵐 福田 恭子 P115 妙に気になるのだけど、うまく良さがわからないときってよくあります。 「蟻一匹」とはとても小さな命、 「見つめつづけて愛せるか」はだれに言っているのか、 主体が自分に向かって言って…
すんなりときたる諦め飛行機が雲をやさしく伸ばし続ける 宇梶 晶子 P25 何かをあきらめる感情が思っていたよりもすんなりやってきたことと 空に伸びていく飛行機雲の組み合わせに惹かれました。 飛行機のあとに長く伸びつづける雲や青い空のイメージがあるの…
塔7月号には塔新人賞や塔短歌会賞の発表があります。 今年も読みごたえがあります。 さて、月集から。 〈歌一つ残ることなく・・・〉と詠む文明 〈残す〉と一字の差を思いみよ 池本 一郎 P2 *〈残す〉の「す」に○あり 今回の池本氏の一連には 「山上憶良・…
吉川宏志さんの歌集を順次取り上げていってみましょう。 今回とりあげる『吉川宏志集』には『青蝉』と『夜光』の抄が入っています。 おもに第一歌集である『青蝉』から取り上げてみます。 (『青蝉』の蝉の文字が旧字なので代用しています。) ささやかな発…
塔6月号には興味深い座談会が掲載されていました。 「今ここにある歌を読むことー短歌の時評・批評を考える」です。 時評を担当したことがある方5名で時評について語り合っています。 時評は難しいながら、面白いと思って読んでいます。 読者である私の立場…
やっと6月号が終わりますー。 総入れ歯になりぬと告ぐる父からの留守電を二度聞きて消したり 川田 果弧 178 細やかな描写が主体の心理を伝えてくれます。 「留守電」ということは、直接言われたわけでもないし、 父親が言葉を発した時間からも、ある程度の時…
「何にでも名前を書く母でしたから靴の名前で見つかりました」 佐藤 涼子 131 東日本大震災にまつわる一連から。遺体の身元が判明したのは几帳面に靴にも名前を書いていたから。まさかそんなことで役に立つとは本人も家族も思っていなかったでしょう。「」の…
ほんとうにさびしいときはさびしいと言わないものだ素数のように 福西 直美 75 ひらがなをたっぷり使って詠まれた歌ですがとてもしんとした感覚です。本当のさびしさの中にいるときの心理と「素数」を重ねるところに惹かれます。「さびしい」「さびしい」「…
ゆび差すという暴力に耐えるごと満月、春の空にかがやく 白水 麻衣 24 月という唯一の美しさは、つねにだれかから見られるもの。特に満月となると余計に目立つ存在。「ゆび指す」という行為を「暴力」としている点がとても強くて、美しい存在がもつ魅力と同…
2週間くらいほったらかしにしていたな・・・・。本は読んでいたのに。「塔」も今年の半分が届きました。 庭土にソラ豆の芽の並びをりよく笑ふ子の乳歯のごとく 栗木 京子 2 とても素朴な歌でいいな、と思いました。「ソラ豆」というカタカナ混じりの言い方が…
卓上の本を夜更けに読みはじめ妻の挾みし栞を越えつ 吉川 宏志 『夜光』 吉川宏志氏の名前を記憶した歌といえばたしかこの一首だったと思います。何年も前、まだひとりで短歌を詠んでいるときに大型書店で立ち読みした短歌関係の雑誌の中にありました。特集…
モアイ像のすすり泣くがに稀勢の里壁に向かひて肩を震はす 坪井 睦彦 168 たぶんテレビ画像を見て詠んでいると思うのですが、「モアイ像のすすり泣くがに」という比喩によって映像をそのまま写したような歌にならずに仕上がっています。「モアイ像」という意…
おだやかに春につひえる愛憎に名前をつけておけば良かつた 濱松 哲朗 98 「春」に終わっていくのは、たぶん春が別れの季節でもあるためだと思います。愛情ではなく、「愛憎」という点がいいと思います。たしかに激しい感情であったはずなのに、名前さえ与え…
正しさを愛する者らのつめたさの もう捨てましょう出涸らしのお茶 小川 ちとせ 72 正しさは強いけれど、ときとして冷たい。正しいことを言っている人たちは意見が違うものに対して、ときとして冷たい。っていうことを主体はたぶん、わかっているのでしょう。…
陽をあびてしまいにはずり落ちてゆく雪そのものの白い激しさ 荻原 伸 28 屋根に残っていた雪でしょうけど、けっこうな量だったのでしょう。どさっと落ちていくときの雪の重みに注目しています。降っているときの軽やかさとは全く違う状態をあえて意識してみ…
最近、塔の会員がそれぞれのブログやSNSで気に入った短歌を塔誌上から選んで紹介していることが多いですね。お互いにがんばっていきましょう。では月集から。 雪の街に傘をひらけばあたたかく傘の中には青空がある 栗木 京子 3 下の句がとても惹かれる一首で…
きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり 永田和宏 「海へ」『メビウスの地平』 難解な歌も多い『メビウスの地平』のなかではかなり素直な詠みぶりだと思います。ある一人に出会ったことで人生が大きく決定されて以前・以後にはっきりと…
ああ、雪 と出す舌にのる古都の夜をせんねんかけて降るきらら片 光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』 学生時代を過した京都を詠んだ一連のなかの一首です。「ああ、雪 と出す舌に」となっていて一字空けがあることですこし間が生まれて時間の操り方が巧みな初句に…
光森さんの第三歌集。赤い表紙が印象的です。結婚を機に石垣島に移住した作者。今までとは違う環境での暮らしや子供の誕生が歌集全体を通して描かれています。 ■沖縄への移住 蝶つがひ郵便受けに錆をればぎぎぎと鳴らし羽ばたかせたり みづのなかで聞こえる…
小夜しぐれやむまでを待つ楽器屋に楽器を鎧ふ闇ならびをり 光森裕樹 『山椒魚が飛んだ日』 雨宿りをしているのか、楽器屋の前で過ごしている時間のこと。楽器屋のなかを見て楽器ではなく「楽器を鎧ふ闇」に注目するあたり、感覚の鋭さを思います。「鎧ふ」と…
金貨のごときクロークの札受け取りぬトレンチコートを質草として 光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』 トレンチコートをクロークに預けるときに質屋に預ける品物を指す「質草」とは面白い表現です。クロークの札が「金貨」を思わせるものだったことからの連想でし…
ここがもう境界なのだ 花花に埋もれし君のほほえみ固し 佐々木 美由喜 168 初句と二句では何のことかわからないのですがそのあとでだれか亡くなった人がいるのだ、とわかります。相手は固いほほえみで花に埋もれている。生きているものとすでに死んだものと…
同僚に勝手にしろと言うた日は猫のポーズがうまくできない 山名 聡美 126 そうか、同僚にそう言ったか・・・・・明日からちょっと心配ですね。「言うた日」という言葉が印象的で言ってしもうた、みたいな感じが出ています。「猫のポーズ」はヨガのポーズだと…