波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2024-01-01から1年間の記事一覧

一首評「湖心」

旅人にあらざるこころ海ならずみづうみならむ湖心は匂ふ 水原紫苑『天国泥棒』P332 ふらんす堂の短歌日記は、一日に一首の短歌が掲載される日記形式のユニークな連載です。この歌は、2022年11月13日の日付に掲載されている短歌です。 旅人ではないこころは海…

一首評「心」

積雲の量感持てる一車輛都心の心を離れゆきたり *都心=としん 心=しん 小池純代『雅族』「勤めの歌」P50 積雲は、こんもりしたフォルムがかわいい、シュークリームみたいな雲です。そんなふっくらした雲みたいな量感の一車輌が、都心から発っていった。 …

一首評「白木蓮」

しどけなく白木蓮の咲いてゐる春のゆふぐれはくるしくてならぬ 真中朋久「相川」『重力』P87 白木蓮はきれいですが、だんだんと花びらが広がって、ちょっとだらしなくなってきた頃だと思います。時間は春の夕方。道を歩いていて、白木蓮が咲いているのを見た…

一首評「首」

青空に首差し入れて咲いている木蓮の白さを言えばよかった 三井修「木沓」『海図』P73 青空に向かって咲いている白い木蓮。とてもきれいな景色です。「首差し入れて」が気になる表現で、わりと大きな花である木蓮が、なんとなく鳥の頭部のように思えます。 …

一首評「銃」

使はなかつた銃をかへしにゆくやうな雨の日木蓮の下をくぐりて 鈴木加成太「千年の雨 二〇二〇年~二〇二二年」『うすがみの銀河』P109 そろそろ木蓮の季節です。とても好きな花です。 つかわなかった/じゅうをかえしに/いくような/あめのひもくれんの/…

一首評「葦」

葦原の葦に雨ふる夕暮れをうつくしいと思ふだらうよごれても 澤村斉美『galley』「葦に雨ふる」P162 「葦原」「葦」「雨」のア音、「夕暮れ」「うつくしい」のウ音が、なめらかなつながりを生んでいます。 「葦原の葦に雨ふる夕暮れ」たしかにきれいな光景だ…

一首評「耳」

三耳壺の三つぶの耳冷ゆ亡き人の声聞きゐるはいづれの耳か *三耳壺=さんじこ 栗木京子『新しき過去』「チキンラーメン」P32 三耳壺は、細長いひも状の飾りが付いた壺。写真などで見ると、たしかに耳みたいな小さな飾りが三つ、ついています。 下の句では壺…

一首評「飛ぶ」

羽ばたきに息継ぎはあり飛ぶという鳥の驚きかたを愛する 吉澤ゆう子『緑を揺らす』「光る墓光らぬ墓」P49 鳥の羽ばたきは一定の動きではなく、動かし方には緩急があります。動きがゆっくりになったときを「息継ぎ」としているのでしょう。 私も鳥の動きを見…

一首評「夕雲」

係恋に似たるこころよ夕雲は見つつあゆめば白くなりゆく *係恋=けいれん *夕雲=ゆふぐも 佐藤佐太郎『帰潮』現代短歌全集第11巻 P361 「係恋」は、「ふかく思いをかけて恋い慕うこと」。そんな心情に似た気持ちを抱えて夕暮れの時間帯を歩いている。 夕…

一首評「花びら」

冬の窓のひかり集めてひもときぬ借りて来し本のなかに花びら 真中朋久「雲頂」『雨裂』P53 静寂で美しい一首。借りてきた本を窓辺で開いた時に、目に入ってきた小さな花びら。 「ひかり集めて」で、あたたかな窓辺という場所がしっかり立ち上がります。 花び…

一首評「影」

影を持つもののみがさびしさの影を曳く 蠟梅のめぐりにひかりは沈む 永田和宏「お母さん似」『午後の庭』P148 蠟梅はちょうど今頃咲いている、きれいな黄色の花。寒い季節なので、明るい色や美しい形、そして香りでとても存在感があります。 「影を持つもの…

一首評「光」

ひかりにはあるべき光と添ふ光おのづからにして簡明ならず 「あるべき光と添ふ光」『置行堀』永田和宏 P135 ひとつ前に置かれているのが 夕光にでこぼこ見えて水の面を風渡るなり ひと日とひと世 *夕光=ゆふかげ 面=も 水面にキラキラと反射している光や…