波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評「こころ」

近づけば近づくほどに見えざらむこころといふは十月の雨 本田一弘 『あらがね』「虎」 普通は距離をつめて近づくほどによく見えるはずなのだけど、近づくほどかえって見えないようになるだろう、とは逆説的だし、皮肉。 単なる物体なら、近寄るほどにはっき…

一首評「髪」

蜂の音ヘ振り向くあなたの長い髪、ひろがる、かるい畏怖みせながら 千種創一 「連絡船は十時」『千夜曳獏』P54 近くで蜂の羽音がしたから、思わず振り向いてしまった相手を見ていて、その長い髪が広がる様に一瞬の美しさを見いだしているのでしょう。 実際に…

一首評「箱」

秋の雨あがった空は箱のよう林檎が知らず知らず裂けゆく 江戸雪「吃音」『空白』P30 10月にはたくさん歌集を読もうと思っていて、そのなかで読み終えた一冊が『空白』です。 秋の空は夏の空より、ずっと高く見えます。秋の雨が上がった後には、箱のようだと…