波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「湖心」

旅人にあらざるこころ海ならずみづうみならむ湖心は匂ふ

水原紫苑『天国泥棒』P332

ふらんす堂短歌日記は、一日に一首の短歌が掲載される日記形式のユニークな連載です。この歌は、2022年11月13日の日付に掲載されている短歌です。

 

旅人ではないこころは海ではなく、湖だという。湖心は湖の中心。

 

旅人ではない、ということはあちこちに移動せずにある程度は一か所に定住している、ということ。

 

海には波があり、水の激しい動きがありますが、湖には大きな水の移動はなく、水面も穏やか。

 

海よりももっとしんとした、静的な場です。湖心が匂うことで、そしてその匂いを感知することで、主体はその場の存在感を確かめているようです。とても静謐な歌で、神聖さを感じます。