一首評
知りたいと思わなければ過ぎてゆく 林檎の芯のようなこの冬 小島なお「心の領地」『展開図』P109 冬にかかる、林檎の芯の比喩は奇妙な感じ。林檎の「芯」なので、周りを削り取られた残骸みたいなイメージが浮かびます。 でも、心もとない状態を感じ取り、何…
ぼろぼろに朽ちたり燃えあがつたりする薔薇がいとしき戦士であつた 木下こう「あはくてあかるい」『体温と雨』P127 『体温と雨』に収録されている歌は全体的に、まさに淡い感じの歌が多いです。 そのなかでポイントになっているのは、名詞の使いかたではない…
だらしなく降る雪たちにマフラーを犯されながら街が好きです 阿波野巧也「ワールドイズファイン」『ビギナーズラック』P9 街に関する歌が多い歌集でした。 全体的な語り口はとてもライトですが、ときどき、いい意味で引っかかる表現が入っています。 取り上…
近づけば近づくほどに見えざらむこころといふは十月の雨 本田一弘 『あらがね』「虎」 普通は距離をつめて近づくほどによく見えるはずなのだけど、近づくほどかえって見えないようになるだろう、とは逆説的だし、皮肉。 単なる物体なら、近寄るほどにはっき…
蜂の音ヘ振り向くあなたの長い髪、ひろがる、かるい畏怖みせながら 千種創一 「連絡船は十時」『千夜曳獏』P54 近くで蜂の羽音がしたから、思わず振り向いてしまった相手を見ていて、その長い髪が広がる様に一瞬の美しさを見いだしているのでしょう。 実際に…
秋の雨あがった空は箱のよう林檎が知らず知らず裂けゆく 江戸雪「吃音」『空白』P30 10月にはたくさん歌集を読もうと思っていて、そのなかで読み終えた一冊が『空白』です。 秋の空は夏の空より、ずっと高く見えます。秋の雨が上がった後には、箱のようだと…
白雲をおし上げてゐる白雲のかがやける白海をはなれつ 竹山広 「東京のこゑ」『一脚の椅子』 季節は夏かな…と思っています。海上に浮かんでいる雲にも位置の上下があって、おしあげていた下の雲が、海を離れたばかり。といった景色を想像します。 白雲のボリ…
彼岸花あかく此岸に咲きゆくを風とは日々のほそき橋梁 内山晶太 「反芻」 『窓、その他』 ちょうどお彼岸の季節ですね。彼岸花の強い赤さは、私はけっこう好き。 この歌も彼岸のころの景ですが、彼岸は時期であると同時に、場所をも指しているのではないか、…
三面に淡い雨降る三面鏡傘さすひとを映すことなし 小島なお「雨脚」『展開図』P57 三面鏡はたしか、実家のドレッサーで見たことがあったな・・・・。お化粧をする際に、三方向から確認できるので、色ムラがないか、仕上がりがきれいか、しっかり確認できます…
ここしばらく、尾崎左永子さんの『鎌倉もだぁん』を読んでいました。 以前、三月書房で買った一冊です。(三月書房ももう一度くらい、行きたかったなぁ・・) 『鎌倉もだぁん』は、鎌倉での暮らしのなかで詠まれた作品群です。 春夏秋冬の鎌倉の風景や色や匂…
やはらかな森の吐息に濡れながらほたるは一生ひかりつづける 杉本なお「ふくろふの森」
るるるると巻き取るパスタ 正解を知っていながらいつも間違う 松村正直 『紫のひと』「正解」P90
遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた 東 直子「ハルノシモン」『青卵』 P183
手紙たくさん書くさびしさを愛と呼ぶつがいのナイフ水に沈めて 東 直子「つがいのナイフ」『青卵』P20
漣はむかし清音なりしとかささなみささなみ夕陽を洗ふ 伊沢玲 『雲のすごろく』「ケトル」P73
感情の錆びゆく速度ねこじゃらしの頭に触れて留めておこう 小島なお「十円」 COCOON14号
人の生に降る雨粒のかくまでに閑けく人の頬に走れる *生=よ 閑けく=しづけく 岡井隆 『宮殿』 P 157
自暴自棄になりてようやくかがやけるこころなど春の発見として 内山晶太 『窓、その他』
一首評
一首評
杉崎 恒夫 『食卓の音楽』から。
一首評
以前も読んだことがある歌集からすこし引いてみます。今回は真中朋久氏の『雨裂』から。以前読んだときより、じんわりした良さが分かる気がしました。
新年早々、風邪をひき、ずっと体調がよくなかったです・・・。 1月の投稿はこれだけ・・・。 塔1月号の評は下書きしているので、順にアップします。
一首評。江戸雪さんの『Door』から。
一首評。澤辺元一氏の『晩夏行』から。
早さではなくて想いがほしいのだが 欲とは初夏の水に似ている 染野 太朗 「馬橋公園」 『人魚』 公園で野球少年を見ている一連のなかにある歌です。 なにかをほしい、と思う気持ちは誰の中にもあって、けっこう強烈なエネルギーになることがあります。 作中…
うすいグラスにいつも危機はありいまは逢ふ前の君に救はれてゐる 林和清 「みちのくの黒い墓石」『去年マリエンバートで』 ブログを書く気がなくなってしまって、1ヵ月くらいほったらかしにしていました。 気が向いたときに、ときどき記事を更新してみます。…
回転ドアのむかうに春の街あれどほんたうにそこに出るのかどうか 小島ゆかり「谷戸町」 『馬上』(現代短歌社) P54 回転ドアってなんだか不思議なアイテムで、 区切られた円筒形のなかを回っていくという あえてやや面倒な仕組みになっています。 単なる1枚…
切手帖のくらやみのなかのうつくしき鳥たちいつせいに発火するごとし 真中 朋久 「火光」 『火光』P100 「火光」のなかでとても印象的だった歌です。最近、読み直していて、やっぱり印象深い。 美しさと怖さが同じ作品のなかにあることがしばしば、あります…