波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

一首評「バター」

室温に戻して塗る時かの夏の憎しみに似るバターの手応え 三井修「木沓」『海図』P74 同じ歌集に同一のモチーフやアイテムを詠んだ歌が登場することがあります。同じ作者なので、ときにはそういうこともありますよね。 『海図』を読んでいて気になった歌は、…

一首評「木槿」

一花ごとにある時間軸 木槿から木槿の時差を渡ってあるく 小島なお 『展開図』「切り株」P137 木槿は早朝咲いて、夕方ごろにしぼんでいく一日花。次々と別の花が咲くので花期を長く楽しめますが、ひとつの花ごとの美しい時間はわずか一日。儚い花です。 この…

一首評「ねこじゃらし」

明け渡してほしいあなたのどの夏も蜂蜜色に凪ぐねこじゃらし 大森静佳「わたしだって木だ」『カミーユ』P118 明け渡しって、賃貸物件の退去時とかにしか使ったこと無いな…。まぁ、そんなことも思いつつ、この一首。 「明け渡して/ほしい」初句六音、二句へ…

一首評「鋏」

園丁の鋏しずくして吊られおり水界にも別の庭もつごとく 鈴木加成太「Summertime」『うすがみの銀河』P14 『うすがみの銀河』は目に見えている世界とはまたもう少し別のところに他の世界がある、と思えるような歌が多い歌集です。 作者の美意識とか優れた感…