波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「ねこじゃらし」

明け渡してほしいあなたのどの夏も蜂蜜色に凪ぐねこじゃらし

  大森静佳「わたしだって木だ」『カミーユ』P118

 

明け渡しって、賃貸物件の退去時とかにしか使ったこと無いな…。まぁ、そんなことも思いつつ、この一首。

 

「明け渡して/ほしい」初句六音、二句への句またがり。相手への要求から唐突にはじまり、相手の中にあるどの夏も「蜂蜜色に凪ぐねこじゃらし」。

 

ねこじゃらしは最初は柔らかい緑色なので、蜂蜜色になっているのは、わりと花穂が咲いてから時間が経っていそう。または夕方なのかもしれません。

 

一面に広がるねこじゃらしを想像します。蜂蜜色は温かみのある色なので、どこかノスタルジック。

 

明け渡してほしいのは「あなた」のすべての夏だろうか。一生分の夏という季節をまるごとこちらに渡してほしい。スケールの大きさ。

 

この一首に限りませんが、そういえば大森作品は思い切った断言や比喩、言葉のジャンプ力が尋常ではないな…と思うことがしばしばあります。

 

押し出すエネルギーの強さが大森作品のひとつの特徴。あのエネルギーがどこからくるのか、たまに不思議なのです。