波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属しています。         ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2017年11月号 2

従兄弟からメールの返信届きたり郵便ほどの時間をあけて       北辻 千展       P62       *「辻」は点ひとつのしんにょう

メールでやりとりしているけど

相手からの返信が数日後だったのでしょう。

「郵便ほどの時間をあけて」がよくて

使うアイテムが変わっても感覚はあんがい、

昔の感覚を引っ張っていそうな感じがよく出ています。

明け渡してほしいあなたのどの夏も蜂蜜色に凪ぐねこじゃらし   大森 静佳    P62

結句にかけてイメージの広がりが美しい歌です。

「明け渡してほしい」という相手への激しい願いと

たぶん夕暮れの光を浴びている一面のねこじゃらしの風景。

初句の呼びかけから結句にかけて読んでいて

ぱっと光景が広がります。

帽子のように遠いひとだとおもうとき脱いではならぬ帽子だ、これは  白水 ま衣   P63

相手との距離間を帽子というアイテムに託している歌と読みました。

頭にかぶるアイテムなのに「遠い」ものとしてとらえつつ

同時に自分の頭から「脱いではならぬ」と言い聞かせている。

そんな矛盾した距離感が、主体と相手との距離らしい。

心理的に遠いけど、物理的には近い相手かな、と思います。

もし帽子を脱いでしまえば本当に遠くなってしまう。

自らに言うセリフとして結句の「帽子だ、これは」が

倒置によってより強く響きます。

飲みほした水のボトルを放るとき遠き砂漠を隊商がゆく     沼尻 つた子   P75

空になったペットボトルを放り投げて捨てる瞬間から

一気に飛躍して実際には見えない

「遠き砂漠を隊商がゆく」という光景に結びつけています。

強引ながら一瞬うかぶ遠い異国のイメージが

夏の暑さを思わせます。

夏競馬まるで当たらぬ親方と窮屈に食ふ昼の弁当      小林 真代    P80

「夏競馬」とはどこか牧歌的な言葉ですが、

「まるで当たらぬ」以上、不機嫌だろう親方。

一緒に弁当を食べている側も気を使って、なんかしんどい。

内容がコミカルで面白い一首です。

立ち話するにほど良き高さなり木槿の白が小耳を立てる    嶋寺 洋子   P87

       *高さの「高」ははしごの「高」

木槿の花は大きな花びらの美しい花です。

けっこう高い位置で咲いていることもありますが

主体が近所の人と立ち話をしようとしたときに

ちょうど白い木槿が顔の近くにあったのでしょう。

小耳をたてる、でけっこう大きな花びらの存在が出ています。

明日あたり長い手紙が届くから答えはみっつ用意しておく     岡本 幸緒   P93

なぜ手紙が届くのか、どうしてそんなに長いのか、

主体はよくわかっているのでしょう。

手紙に対して、「答えはみっつ」あるという。

承諾、拒否、保留といった回答の内容があれこれ浮かびました。

手紙という形でやってくるだれかの意志、

それをよくわかった上で迎える側の心づもり、

相手との関係や距離感、ささやかな心の機微にも思いが及びます。