波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「木槿」

一花ごとにある時間軸 木槿から木槿の時差を渡ってあるく

 小島なお 『展開図』「切り株」P137

 

木槿は早朝咲いて、夕方ごろにしぼんでいく一日花。次々と別の花が咲くので花期を長く楽しめますが、ひとつの花ごとの美しい時間はわずか一日。儚い花です。

 

この歌では、ゆっくりと木槿の花のひとつひとつを見ているようです。「一花ごとにある時間軸」は人間というより、ちょっと昆虫めいた視点かも、と思います。

 

昆虫がひとつひとつの花を飛んで移動するとき、その一花ごとに違う時間がある、と感じるのではないでしょうか。

 

ひとつひとつの花に用がある生きものの視点だと思うのです。

 

人間の視点をもっともっと小さくしていくと、他の生きものの視点を得ることがあります。

 

この歌では「木槿から木槿の時差」という微小な差をとらえていて、通常の人間とはちょっと違う時間の感覚を作っていると思います。