波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2018年7月号 1

暑いよー。暑いし、時間があんまりないし、やる気もいまひとつでないので、7月号の短歌の紹介はわりとあっさりにしようか、と思っています。

(実は一度、休もうかとも思っていたよー・・・バテ気味で。)

青梅のひとつひとつに窪ありて昨夜の雨を残していたり    吉川 宏志   P4

青々としてまるい梅ですが、くぼみがあって、そこに昨夜の雨のしずくが残っている。

内容としてはとてもシンプルですが、青梅という物体の形に残る水への着目がいいな、と思います。

「昨夜の雨」というところに、時間のずれがあります。

主体が青梅を見つめているタイミングと、雨が降った昨夜の時間が、青梅に残っている水を介して混ざり合う。

雨だった水を見ることで、すでに過ぎた時間の一部を見ていることになる。なんでもないようなものに時間のずれを発見している歌だと思います。

ハナアブが花より発ちてわが裡の銀の天秤はつか傾く   三井 修     P5

「わが裡の銀の天秤」という点が美しい歌です。

実際にハナアブが飛んで行ったのは目の前の花から、なのですが、飛びたったことによってハナアブの重さが加わらなくなる。

それに伴って自分のなかのバランス感覚がすこし揺さぶられたのかもしれません。

目の前の光景から、内面へ転じてささやかな変化を書き留めておく、というのも短歌には向いているのでしょう。

夕立をみあげる君のかたむいた耳が小舟のようにすずしい    江戸 雪   P5

夏の夕立は短い時間にさっと激しく過ぎるもの。過ぎ去ったあとはちょっと涼しくなるので、さきほどまでとの空気感の差に驚くことがあります。

まさにいま降っている夕立を、作中主体と「君」が見上げているのでしょう。「耳」の形はたしかに小舟のようで、なにかを受け止めるような形にも見えます。

空を見上げているときの相手の横顔を見ている歌というのは、ほかにもいろいろありそうですが、「耳」への注目とか「小舟」の比喩で今見つめている、という感覚が出ていると思います。