波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2015-01-01から1年間の記事一覧

2015年のふりかえり

これが今年最後のエントリーになるのでちょっと1年の締めくくりの感想など書いてみましょう。 今年の1月からこつこつとブログを書いてみて、なるべく3日に1回くらいの割合でアップするようにしています。コメントは全くつきませんが(←コメントは閉じてしま…

角川「短歌」 12月号

角川「短歌」12月号で掲載していただいたので今更ですが、アップしておきましょう。 角川「短歌」 2015年12月号 公募短歌館(加藤治郎 選:秀逸 香川ヒサ 選:佳作)終点がきみのふるさとの海である路面電車のそのなめらかさ (松平盟子 選:秀逸)ひとつだ…

真中 朋久 「火光」

今回は真中さんの「火光」を取り上げてみましょう。何度読んでもなかなか難解で、手ごわい歌集です。 全体的に読者からの安易な理解とか共感といったものを最初から拒否しているような雰囲気を持っています。

中津 昌子 「むかれなかった林檎のために」

今回は中津昌子さんの「むかれなかった林檎のために」を取り上げてみます。この歌集、装丁がすごくきれいなんです。紺色の表紙に金色のプレートみたいなタイトルがついています。品があって好きですね。 ■植物に託した歌 つよい国でなくてもいいと思うのだ …

一首評 「桜草」

あざやかな記憶のしかし桜草死を看取ったらあとは泣かない 土岐 友浩 「Bootleg」 「あざやかな記憶」はおそらく亡くなった方との思い出なのだろうけど「しかし桜草」という逆接によって二句の途中でぐっと歌の流れが変わっています。 早春にいちはやく咲く…

一首評 「雪」

全集の紐の栞をもてあそぶ雪という字の似合うあなたは 千種 創一 「砂丘律」 「全集の紐の栞」というとても細いささやかなアイテムや栞を触っている指の動き、「雪という字の似合う」という描写、ひとつひとつが「あなた」を丁寧に描いていて美しい。 「あな…

第6回クロストーク短歌

塔短歌会の主宰である吉川宏志氏による「クロストーク短歌」は関西で半年に1回くらいの割合で開かれている短歌の講座です。内容は実作者向けですね。ざっくりと感想を書き留めておきます。今回は12月5日にありました。「現代仮名遣いと歴史的仮名遣い」とい…

一首評 「柘榴」

月のなき夜の梢はしづかにて柘榴は万の眼をひそませる 中津 昌子「夏は終はつた」 「月のなき夜」なのでめだった光のない夜の暗さと柘榴の赤い色合いとがイメージとして浮かんできます。 柘榴という不思議な果実のもつちょっと不気味なイメージを思い出しま…

一首評 「酢」

計量スプーンに満たしゆく酢の波立ちのはろばろと風をはらむ帆船 中津 昌子「むかれなかった林檎のために」 初句の大きな字余りから下の句へ広がっていく世界の提示が鮮やかです。下の句にかけて増えるa音の連なりもイメージの明るさに役立っています。 計量…

大口 玲子 「大口玲子集」

今回は大口玲子さんの「大口玲子集」を取り上げてみましょう。第一歌集「海量」の作品がメインで、すごく読み応えがありました。 ■日本語、言葉を詠んだ歌 名を呼ばれ「はい」と答ふる学生のそれぞれの母語の梢が匂ふ 日本語が日本を支ふる幻想のきりぎしに…

一首評 「黒猫」

人よりもゆたかにあゆむ黒猫の雑貨屋の角まがるまでを見つ 横山 未来子 「午後の蝶」 横山さんの短歌のなかには、猫を詠んだ歌が少なくありません。「人よりもゆたかにあゆむ」で猫好きのひとの感覚がよく出ています。 短歌についている散文を見ていると、外…

一首評 「椅子」

生きなほすことはできぬをいくたびもひきもどされてゆくひとつ椅子 真中 朋久 「火光」 人間はたしかにどんなに願っても生きなおすことはできない、その一方で何度もなんども位置を直される椅子。 椅子のようすは日常のなんでもないシーンのようでいて生きな…

一首評 「ブロッコリー」

喉をゆくブロッコリーのこまかさは一塊の森さやぐ涼しさ 大口 玲子 「海量」 「もの喰ふ女」のなかに置かれていた一首です。 ブロッコリーは確かに森を連想させる野菜です。喉を通っていく食べものと、連想してしまう森のさやぎとのリンクが面白い。緑色を思…

「追体験短歌史 1995年編」雑感

歌人の光森裕樹さんが運営なさっているtankafulという短歌のサイトがあります。短歌情報満載の貴重なサイトです。 さて、あんまりイベントには行かないタイプの私ですが、(ろくに知り合いもいないのに、参加してもつまんなかったら、もういろいろ面倒くさい…

楠 誓英 「青昏抄」

今回は楠 誓英さんの「青昏抄」を取り上げてみましょう。前から買いたかったのですが、やっと入手・・・。 ■自己の内面を見つめる歌 言ひかけてやめたる吾と合歓の葉が閉ぢて下がれり夕闇の中 面接を終へて戻れる夜の道に脳の形に鶏頭ひらく 狂ふとは狂ふお…

一首評「銀貨」

ポケットに銀貨があれば海を買ふつもりで歩く祭りのゆふべ 光森 裕樹 「鈴を産むひばり」 とても美しい歌が並ぶ一連「鈴を産むひばり」のなかに置かれている一首です。 にぎやかなお祭りの夕暮れに、そわそわした気持ちで歩いているのでしょう。「銀貨」とい…

横山未来子 「金の雨」

ゆっくり読んでいたら、次の歌集「午後の蝶」がでていますがな・・・。「金の雨」はもともとは30首連作として編まれた作品がベースになっているのでひとまとまりの世界に浸りながら読むことができました。 植物を詠んだ歌 日蔭なる草にとまれば植物のしづけ…

一首評 「片耳」

失はれし瓶の片耳を恋ふやうな愛が身内の奥に残れり *身内=みぬち 楠 誓英 「青昏抄」 先日、葉ね文庫さんで買った一冊のなかから。美術館で陶磁器を見ている一連のなかにおかれている歌です。 しずかな美術館のなかでひっそりと置かれた、片耳が欠けた状…

一首評 「柘榴」

鮮明に柘榴の咲けり読み終へてまたはじまりへ戻る詩のごと 横山未来子 「金の雨」 柘榴というと、どうしても実を思い浮かべてしまうのですが、花もとてもきれいですね。 まあるく膨らんだつぼみからぱっと咲いた柘榴の花って鮮やかな色のおかげもあってとて…

広島 その5 (西条でみかけたあれこれ)

さて、やっと広島旅行の写真の紹介が終わります・・・遅い。 最後は西条の酒蔵通りのあちこちで見かけたちょっと面白いもの。 これは杉玉っていいます。まんまる。酒蔵の軒先に吊るされるシンボルだそうです。 起源をさかのぼるとかなり古く、球形になったの…

広島 その4 (酒泉館・くぐり門珈琲店)

さて、まだ写真があるんですわ・・・。 西条でお茶のできるところを探していたのですが・・・ほんとは酒泉館っていうところに行きたかったのです。でも閉まってました・・・。残念。 昔は醸造試験場として使用されていたそうです。こういう古い洋館ってすご…

広島 その3(西条酒蔵通り界隈)

ここ数年で飲めるお酒の幅が広がり、以前はワインばかりだったのが日本酒も好きになりました。広島の西条はたくさんの酒蔵がある街なので、広島旅行の際に寄ってみました。 酒蔵通りには、高い煙突と白い壁の酒蔵が並んでいました。赤煉瓦の高い煙突にはその…

広島 その2(平和記念公園、その周辺)

原爆ドーム付近の小さい噴水。まだ日差しがつよいなか、水の動きがほんとにきれい。 こちらは動員学徒慰霊塔。付近を通った人がそっと手を合わせていかれるのです。 原爆ドームからすこし歩いて元安橋を渡るときの写真です。橋の向こうには白っぽいレストハ…

広島 その1(原爆ドーム)

かれこれ1ヵ月くらい過ぎてますが・・・・この夏に広島に行く機会がありました。そのときの写真を数回くらいにわけてちょっと投稿しておきます。 写真の整理や加工をちょっとずつやっています。慣れないソフトでおろおろしながら・・・。でもやっぱり写真を…

一首評 「嘘」

嘘を吐くときには旅するごとく吐く日暮れてのちを残る海光 光森 裕樹 「石垣島 2013」 光森さんは写真の上手な方で、「石垣島 2013」は石垣島のすごくきれいな写真と短歌がセットになったちょっと変わった歌集です。 嘘を「旅するごとく吐く」とは面白い比喩…

一首評 「海」

ペルシアンブルーに織りいだす絨緞 海知らざれば海より碧く 中山明 「猫、1・2・3・4」 中山明氏の名前を知った思い出深い一首です。「ペルシアンブルー」からはじまって上の句を一気に読ませて、一字あけて下の句、という緩急のつけ方が面白いなと思い…

「短歌を選ぶ」ということについて

昨今、短歌の同人誌もいろんなのがあって、正直、その動きを追えていません・・・。 私は短歌同人誌とかそんなにあれこれ買いあさることはないですね。すごく興味を持ったものだけ注目して買いますが。 実際に手に取ってみて、これならいいなと思わないとち…

京大短歌21号 その二

「京大短歌21号」には面白い評論が載っている。「口語にとって韻律とはなにか―『短詩型文学論』を再読する―」という阿波野さんによる評論です。短歌には調べが大事、と言われているいわば定番の内容に対して「本当にそうだろうか」と疑問を出し、『短詩型文…

京大短歌21号

今回は「京大短歌21号」を取り上げてみます。昨今いろんな大学短歌会がありますが、京大短歌会はそのなかでもかなりの伝統を誇る短歌会です。短歌作品はもちろん、評論、歌集の批評会の記録、そして今回は「吉川宏志特集」と題して京大短歌OBで塔短歌会の…

一首評 「硝子」

息吹きて硝子を膨らませることのたとえば断念のごとき愛しさ *愛しさ=かなしさ 三井修 「風紋の島」 前後の歌から、北海道小樽を訪れたときの作品であることがわかります。小樽は美しい硝子細工が有名ですね。吹きガラスと言われる、熱い硝子に息を吹き込…