波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「銃」

使はなかつた銃をかへしにゆくやうな雨の日木蓮の下をくぐりて

鈴木加成太「千年の雨 二〇二〇年~二〇二二年」『うすがみの銀河』P109

そろそろ木蓮の季節です。とても好きな花です。

 

つかわなかった/じゅうをかえしに/いくような/あめのひもくれんの/したをくぐりて

 

私なら、読むときには 7/7/5/9/7とします。4句目にかなりの字余り。だいぶゆったりした感覚で読みました。

 

「使わなかつた銃をかへしにゆく」とは面白い比喩です。使用するつもりで借りたはずの「銃」。武器なので、戦闘で使用するか少なくとも動物を狙って撃つか、くらいの目的があったはずです。

 

結局使わなかったので、当然返しに行く。なんだか無駄なことを頼んでしまった、でも銃を使わなくて済んで、案外ほっとしているのかもしれません。

 

そんな中途半端な感覚で降る雨、と取りました。春の暖かい雨。もしかしたら、少しぬるい感じすらあるかもしれません。

 

微妙な温度の雨の日。木蓮の下を静かに進んでいく。ゆっくりと春の時間の進み具合を歩むようです。