波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「スプーン」

木のスプーン銀のスプーンぬぐひをへ四月の午後は裸足でねむる

睦月都『dance with the invisibles』「十七月の娘たち」P37

そろそろ4月が終わりですね。『dance with the invisibles』はとても読み応えがあり、美しい一冊でした。

 

「木のスプーン」は柔らかい質感や懐かしさをイメージします。「銀のスプーン」は硬質で気高い感じ。

 

質感やイメージの異なるスプーンは、単なるスプーンとして読むだけでなく、なにか異質なもの同士が、同じ場所に存在している違和感や不思議さを想像します。

 

それぞれのスプーンを拭い終えてから、四月の気だるい午後に眠ります。裸足なのですこし無防備な感じがして、リラックスした眠りみたい。春にはこんなお昼寝もいいな、と思います。

 

ただ、連作全体を読んでいると、もう少し不穏な感じや喪失感も感じます。

 

日常の中に貼りつく喪失感が漂っていて、挙げた歌はその欠落からすこし逃れることができる時間かもしれない、とも思います。