波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属。  ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

塔2018年4月号 4

先日書いた記事のなかで次の一首を取り上げましたが・・・。

ためらいをかすか見せつつふり仰ぐあなたというひと 窓に見届く    中田 明子 P122

ためらっている様子を「見せつつ」なので、

自分ではなく他人の行動のような・・・・

ふり仰いだのは「あなた」のような気がしてきました。

・・・中田さん、ごめんなさい。

ここに追加で書いておきます。申し訳ないです。

「キジトラ♂・鼻に傷あり」電柱にはためく写真青く褪めをり    川田 果弧  P152

電柱に家出猫を探している紙が貼ってあるのだと思います。

写真入りで、猫の年齢や外見の特徴が書かれていることが多いです。

この歌のなかでは、「キジトラ♂・鼻に傷あり」

という記載があって、そのまま短歌のなかに使っています。

なにかに記載されている言葉や文句を

そのまま取り込むことで、

読者もいまその文句を見ているような感覚が生まれます。

でも歌のなかの写真はすでに青く色褪せているので

貼られてからそれなりに時間が経過してしまっているのでしょう。

見つからなかったのかもしれない猫の姿が

いつまでもその電柱に貼られて、人目にさらされている。

事実だけ並べて詠んでいるのですが

過ぎさった時間とか飼い主の思いとかを連想させます。

笑っちゃう彼女と同じ猫抱いてyou are not a good lier     

*you are not a good lier=人を傷つける嘘はいけない         鞠古 綾   P153

不思議な歌で、この一首だけではどういうシーンなのか、

あんまりよくわからないんだけど

すこし気になって選んだ歌です。

「彼女」と作中主体とは、あんまり仲がいい感じがしない。

たとえば恋敵とか、ライバル関係かもしれない。

「同じ猫」はまったく同じ一匹の猫なのか、

同じ種類の猫なのか、それもわからない。

たぶん同じ種類の猫なんでしょう。

自分が彼女と同じ猫を抱っこしているさまを

自分で笑ってしまう、ということだろうか。

「you are not a good lier」には「人を傷つける嘘はいけない」という

長いルビがふってある。

(ただ、「lier」になってますけど、「liar」のスペルミスかな・・・・?)

いい嘘つきは人を傷つける嘘を言わない、

ということを示したいのだろう、とは思うけど・・・

思わず言いそうになった嘘を

言わないようにやり過ごしたのかしら。

「彼女」はどういう存在なのか、もう少し

ヒントがあるほうがいいかな、とは思います。

謎めいた歌をあれこれ考えるのも面白いんですけどね。

解釈の定まらない言葉選びが、

この歌の場合はすこし傷になっている感じがします。

並んで食む三浦大根私はあなたが好きなだけだつたのに   *私=わたくし   高野 岬

(「高」ははしごだか)    P171

「三浦大根」っていう名詞がいいな、と思います。

三浦大根は昔は生産量が多かったのに、

作りやすい青首大根に取って代わられたらしく

「三浦大根」を食べているという描写に

なんだかすごくこだわりを感じます。

三浦大根は煮物にするとおいしいらしいし、

食べているのは、おでんとかブリ大根とか煮物な気がする。

「並んで」食べている、というのもふたりの関係が

うかがえる描写です。

居酒屋のカウンター席に座っているシーンを

想像しました。

「私はあなたが好きなだけだつたのに」という

素朴なセリフが印象的な歌です。

好きなだけではどうにもできないことが

見えてきたのか、迷いとかためらいの中にいるのかもしれない。

「だったのに」で余韻を残して終わる結句も

心情をうかがわせていいと思う。

ゆでたまごみたいな顔してゆでたまごむいている幼子の小さき指   魚谷 真梨子  P182

食事のなかのちょっとしたシーンですが

とてもかわいい場面を切りとっています。

小さい子が一生懸命むいているゆでたまご

ゆでたまごって、つるんとむけるときもあれば、

なかなかきれいにむけないときもあります。

初句、二句が素直にかわいいなと思える歌です。

ゆでたまごみたいな顔して」で

ゆでたまごのつるんとした質感とか見た目が

ありありと浮かんできて納得してしまいます。

ゆでたまご、顔、小さき指といった

丸みのあるフォルムが続いていて

読んでいて楽しい一首です。

幼い子なので、たぶん目の前のゆでたまご

意識を集中してむいているんだろうな、

ちょっとムキになっているかもしれない、

とかそのシーンを楽しく想像できます。