波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「銀」

あたたかき秋なり薄の穂の群れは風吹くたびに銀が洩れだす

澤村斉美『galley』「六つの季節」P18

11月になっても暑い日があるな、とか思っていたのですが、今日とか急に寒い! 気温の激変がつらいです。

 

薄の穂が靡くさまは、軽やかでノスタルジック。秋から冬にかけて、馴染みのある風景です。

 

この一首で不思議なのは、「風吹くたびに銀が洩れだす」。

 

「銀」とはなんなのか。しばらく悩みました。実際の銀ではもちろんなくて、イメージとしての銀色だと思います。

 

「洩れだす」という動詞もすこし奇妙で、液体っぽいイメージになってきます。薄の穂を器として、今まで溜まっていた銀が、風の動きによって「洩れだす」。

 

その動きを抑えることができない感じがあって、「銀」を受容しないといけないような気分を感じます。

 

「六つの季節」の一連には、仕事や職場の風景の合間に、植物が詠まれています。えのころ、すすき、南天など。身近に見る植物ばかり。

 

労働の疲れや日々の暮らしの合間にある薄の穂。人間とは少し距離のある位置で揺れる薄の動きや銀色のイメージがきれいで、儚い雰囲気です。