波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「針」

逢ふと縫ふ、いづれも傷をつけてをり女のもてるいつぽんの針


澄田広枝「桐のむらさき」『ゆふさり』P166

「縫ふ」針はもちろん裁縫の針。よく似た漢字で「逢ふ」があります。

 

「逢ふ」のなかに見出す針。先端で布をチクチク刺していく針の鋭さと、逢うことによって相手を傷つける鋭さ。

 

逢うことは、おそらく恋情でありながら、同時に相手を傷つけることもあるから。距離の近さ、関係の深さによっては、逢うことで苦しさや苦みを与えてしまうことがあります。

 

この歌ではわざわざ「女のもてるいつぽんの針」と限定されているので、女性の中に潜んでいる鋭さ、鋭利な部分、ととらえておきます。

 

逢うことの苦しさや切なさを「針」というアイテムで具体的なイメージに結びつけています。単なる喜びだけではない複雑さが潜んでいて、印象深い歌のひとつでした。

  *

先日、歌集『ゆふさり』批評会に参加してきました。作者である澄田さんとお会いしたのは初めて。澄田さんの笑顔がとても印象的でした。

 

スタッフの方々の手作り感のある、気持ちのこもった運営がなされた、素敵なイベントでした。久しぶりに顔を見てお話できた塔の会員さんなどもいて、嬉しかったです。

 

一冊の歌集を出版するって、やはり大変なことですね。大事に作られた一冊を大勢の友人・知人で読み込んで、話し合う批評会は、とても贅沢な機会だと思います。貴重な機会をありがとうございました。