青空に首差し入れて咲いている木蓮の白さを言えばよかった
三井修「木沓」『海図』P73
青空に向かって咲いている白い木蓮。とてもきれいな景色です。「首差し入れて」が気になる表現で、わりと大きな花である木蓮が、なんとなく鳥の頭部のように思えます。
首を差し入れる、とは能動的な動作だな、と思います。みずから関わっていこう、みたいな姿勢なのです。そんな動きのある木蓮の花に対して、この歌の主体はちょっと消極的。
だれか木蓮の白さを伝えたい相手がいたのでしょう。結句が「言えばよかった」なので、結局は言わなかった、言えなかった。なぜ言えなかったのか、それはわかりません。でもなんとなく言えずじまいになってしまった。
「木蓮の白さを」は9音、たっぷりと字数を使って、結句に繋いでいます。なんとなく躊躇ってしまって、結局は言えなかったこと。いろいろとあります。
いまさら仕方ないんだけど、言えばよかった。ちょっとした後悔として思い出す。そんな小さな苦みのある歌です。