波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属。

一首票「苺」

つつかれてヨーグルトに沈む苺 やさしき死などあるはずもなく

 杉崎 恒夫 『食卓の音楽』 「四角い食卓」 P32

久しぶりに読んでいた歌集から。(苗字は「崎」の字で代用しています。)

 

白いヨーグルトのなかに赤い苺。食卓でのあるシーンを描きながら、下の句では「死」のイメージにつなげています。

 

ひとつの器のなかに存在する、ヨーグルトと苺。 「苺」という鮮やかな色味の物体が、なんだか生命の象徴のようにも思えます。

 

「死」がもつ酷薄さや残酷さを作中主体は否定しないし、隠しもしない。ただ淡々と見つめている感じ。

 

「あるはずもなく」と言いさしの状態にされた結句で、読んでいる側の気持ちも中ぶらりんになる。

 

杉崎氏の描く世界は、あくまで目に見える日常の範囲でありながら、想像力による飛翔が心地よかったなぁ。

一首評 「係」

 

グラウンドに白線を引くごろごろの係でずっといたかった秋

「ずっとパン生地」    相原 かろ  『浜竹』P22

グラウンドに白い粉で引く白線。運動会のときなどに必要で、そういえば専用の道具があったな、と思います。

 

グラウンドに白線を引く係は地味な係で、裏方。「ごろごろ」なんていう擬音語をそのまま使うことで当時、そう呼んでいたのかも、と思わせます。

 

運動会などで主役級の活躍をするわけでもなく、目立たないけど必要、くらいのポジションでいるほうがいい。そのくらいの感覚かな、と思って読みました。

 

「ずっといたかった」なので、そのまま目立つような位置に行きたいわけでもなく、学校や、学校に通う年齢の外にも出たくなかったのかもしれない。

 

時間は流れるし、いつまでも同じようなポジションというわけにもいかないのでしょうけど、願望としては「あのくらいのポジションがよかったなー」という気分を引きずっているのではないでしょうか。

 

     *

「浜竹」は全体を通して、力の抜けた雰囲気が漂う歌集です。

 

世の中にはちょっと力を抜いたポジションの人もいるし、それもいいんじゃないかな、と思います。

 

 

松村正直 『戦争の歌』

松村正直氏による戦争の歌のアンソロジー


明治時代の日清・日露戦争から昭和の太平洋戦争まで。つまり、近代日本の始まりから敗戦までの間に詠まれた戦争の歌を収録してあります。

 

戦争を詠んだ歌は膨大な数があるはずですが、その中から51首を選んで紹介しています。抽出するだけでも大変だと思います。

 

基本的には1首あたり、見開き2ページという限られた紙幅のなかで、一首をどう解釈するのか、発表当時の反応はどうだったのか、歴史的なエピソードや作者の人物像などが、コンパクトな量で解説されています。

 

初心者向けのシリーズなので、アンソロジーの形でできるだけコンパクトな情報量の書籍を読みたい、という人には親切なつくりになっています。

 

本書のなかで印象に残った短歌や文章に触れつつ、感想を書いてみたいと思います。

 

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これからの「波と手紙」について

いつも「波と手紙」を読んでくださってありがとうございます。初めて読んでいる方もありがとうございます。


さて、当ブログでは、毎月の「塔」に掲載されている短歌からいいと思った作品を選び、コメントをつける記事を掲載してきました。

 

が、時間が無くなってきたことと、読んではいるもののコメントを書く気力が減ってしまったため、掲載を終了しました。

 

いままで短歌を取り上げたことでお礼を言ってくれた会員の方や、読んでいると声をかけてくれた方たち、ありがとうございました。

 

べつにもう二度と「塔」の評をやらない、というほどでもなく、現在でも「塔」は毎月読んでいます。気が向いたら一首評などで取り上げる機会もあるかもしれません。

 

今後はまた歌集や評論集などを取り上げるつもりでいます。一冊の本をじっくり読んでレビューを上げる作業は、私にとってはとても楽しいものです。

 

また、今までのレビューもすこし手を加えて、リライトする機会を増やします。そのため、デザインや表示、内容が今までと一部変わっていくこともあります。

 

 

これからも「波と手紙」をよろしくお願いします。 

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