波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

大口 玲子 「大口玲子集」

今回は大口玲子さんの「大口玲子集」を取り上げてみましょう。第一歌集「海量」の作品がメインで、すごく読み応えがありました。 ■日本語、言葉を詠んだ歌 名を呼ばれ「はい」と答ふる学生のそれぞれの母語の梢が匂ふ 日本語が日本を支ふる幻想のきりぎしに…

一首評 「黒猫」

人よりもゆたかにあゆむ黒猫の雑貨屋の角まがるまでを見つ 横山 未来子 「午後の蝶」 横山さんの短歌のなかには、猫を詠んだ歌が少なくありません。「人よりもゆたかにあゆむ」で猫好きのひとの感覚がよく出ています。 短歌についている散文を見ていると、外…

一首評 「椅子」

生きなほすことはできぬをいくたびもひきもどされてゆくひとつ椅子 真中 朋久 「火光」 人間はたしかにどんなに願っても生きなおすことはできない、その一方で何度もなんども位置を直される椅子。 椅子のようすは日常のなんでもないシーンのようでいて生きな…

一首評 「ブロッコリー」

喉をゆくブロッコリーのこまかさは一塊の森さやぐ涼しさ 大口 玲子 「海量」 「もの喰ふ女」のなかに置かれていた一首です。 ブロッコリーは確かに森を連想させる野菜です。喉を通っていく食べものと、連想してしまう森のさやぎとのリンクが面白い。緑色を思…

「追体験短歌史 1995年編」雑感

歌人の光森裕樹さんが運営なさっているtankafulという短歌のサイトがあります。短歌情報満載の貴重なサイトです。 さて、あんまりイベントには行かないタイプの私ですが、(ろくに知り合いもいないのに、参加してもつまんなかったら、もういろいろ面倒くさい…

楠 誓英 「青昏抄」

今回は楠 誓英さんの「青昏抄」を取り上げてみましょう。前から買いたかったのですが、やっと入手・・・。 ■自己の内面を見つめる歌 言ひかけてやめたる吾と合歓の葉が閉ぢて下がれり夕闇の中 面接を終へて戻れる夜の道に脳の形に鶏頭ひらく 狂ふとは狂ふお…

一首評「銀貨」

ポケットに銀貨があれば海を買ふつもりで歩く祭りのゆふべ 光森 裕樹 「鈴を産むひばり」 とても美しい歌が並ぶ一連「鈴を産むひばり」のなかに置かれている一首です。 にぎやかなお祭りの夕暮れに、そわそわした気持ちで歩いているのでしょう。「銀貨」とい…