波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2017-01-01から1年間の記事一覧

2017年の振り返り

2017年の振り返り記事です。

塔2017年12月号 5

はかなごと繰り返しつつ来し生のリンスインシャンプーのごはごは 山下 好美 P191 上の句で今までの人生の様子、 下の句で日常生活の中で使うアイテムの話につなげています。 「ごはごは」はリンスインシャンプーで洗った後の 髪の質感だと思うのですが、 今…

塔2017年12月号 4

年内に「塔」12月号の評を全部アップしようと 努力しています・・・・・ なんとか間に合いそうなので いつもこのくらいのペースでやったらいいんじゃないの、って 自分で思いますね。 母のすすめる法律事務所を断って夕焼けのただ赤かった日に どのようなわ…

塔2017年12月号 3

あのひとの失くした部分にちょうどいいオシロイバナのたねをください 小川 ちとせ P97 大事な人の欠落した部分を埋めるために 「オシロイバナのたね」というささやかなものを願っています。 丈夫で育てやすい「オシロイバナのたね」を使って せめて失くした…

塔2017年12月号 2

地の中の六年が蝉のほんとうの命とおもう 階段を拭く 沼尻 つた子 P28 蝉は地上にいる時間よりも 地中にいる時間のほうがずっと長いことは有名ですね。 まぁ、蝉の種類によって地中にいる期間の長さはまちまちのようですが。 この歌では、人目につかずに土の…

塔2017年12月号 1

今年も最後の12月号が届きました。 1年、きちんと詠草出せてよかった。 塔12月号には松村正直さんの『風のおとうと』の 書評を掲載していただきました。 できる限りの力で書いたので、読んでほしいです。 溜飲を下ぐるがごときもの言ひのこのひとも信を置く…

大辻隆弘 『景徳鎮』

結社「未来」の選者である大辻氏の第八歌集。 (大辻氏の「辻」は点ひとつですが、代用しております) しばらく前からずっと読んでいて やっとまとまったので公開しておきます。 ■社会へのまなざし 大辻氏は数多くの時評や評論も手掛ける論者でもあります。 …

第10回クロストーク短歌

先日、クロストーク短歌に行ってきました。 今回のゲストは松村正直氏。 テーマは「絵画と短歌」 吉川さんの短歌には、美術展に行ったときの体験や 絵画を詠んだ歌はけっこう多いんですが 松村さんの短歌にはそんなに多くはない感じ。 絵画を詠んだ短歌を紹…

塔2017年11月号 5

そして三角錐を指し「奥行きのあるトライアングル」って詩的 白水 裕子 P185 どういう状況の歌なのか、よくわからないのですが、 どこかで三角錐状のオブジェでも見ているのか。 なにかの続きとしての「そして」という接続詞の使い方や、 そしてさん/かくす…

塔2017年11月号 4

沖縄の土が話してゐるやうな大田元知事の声を悼めり 西山 千鶴子 P140 1995年に沖縄で起きた米兵による少女暴行事件。 その後に軍用地の強制使用手続きへの代理署名を拒否したのが 当時の沖縄県知事・大田氏でした。 大田氏は今年6月に他界。 「沖縄の土が話…

塔2017年11月号 3

灯台の光が一周するまでの闇に思いしヴァージニアウルフ 小山 美保子 P96 ヴァージニア・ウルフの小説に『灯台へ』という小説があるので そこからの連想かな、とは思います。 「一周するまでの闇」という点が興味ぶかく 灯台の光が周っている限られた時間の…

塔2017年11月号 2

従兄弟からメールの返信届きたり郵便ほどの時間をあけて 北辻 千展 P62 *「辻」は点ひとつのしんにょう メールでやりとりしているけど 相手からの返信が数日後だったのでしょう。 「郵便ほどの時間をあけて」がよくて 使うアイテムが変わっても感覚はあんが…

塔2017年11月号 1

全国大会の特集なので分厚いよー。では月集から。 ははそはの母型彫刻機はベントン式 パンタグラフの原理とぞいふ 真中 朋久 P3 たしか、ある歌会で題詠「母」として出された一首でした。 題をそのままのイメージで詠むのではなく、 ちがうイメージに結びつ…

平日歌会に行ってみた。

久しぶりに「塔」の歌会の話など。 先日、塔事務所で行われている平日歌会に参加してみました。 木曜日の昼間にやっているので、なかなか参加できなかったのですが 今回は祝日とかぶっていたので、ためしに参加。 歌会が1時からなので15分くらい前に事務所内…

一首評 「コード」

イヤフォーンのコードを指に解くときひとは敬虔の表情をせり 大辻 隆弘 「ナックル」 『景徳鎮』 イヤフォーンのコードのからまりは どこか植物の蔓を思わせるときがあります。 細いコードがからまっている状態を指にとり、 するっとほどく時、どこか祈りに…

一首評 「水」

思い通りに生きることなどできなくて誰もできなくて水を分け合う 松村正直「花火大会」 「星座」2017年初菊号 P8 結社誌「星座」を拝見する機会があり、その中から。 ・・・「星座」ってさ、結社誌っていうよりも どこかの短歌総合誌みたいな作りですね・・…

塔2017年10月号 5

ゆびさきに罅をなぞりて遠雷の まだだいじょうぶひとり諾う 神山 倶生 P162 「遠雷の」で宙ぶらりんになった感じがして そこで立ち止まります。 指先で細かい罅をなぞっている仕草から 「遠雷」という語が出てきたのか。 細かい罅や遠雷はなにか不吉な予感が…

塔2017年10月号 4

萎れゆくことと閉じゆくことの差異、朝顔の花は昼をゆれつつ 中田 明子 P114 日没の10時間後くらいには開花する朝顔。 そして、日中の暑さによって水分をとられてしぼんでいきます。 朝顔のフォルムの変化に萎れることと、閉じることの差異を 感じている主体…

塔2017年10月号 3

お元気そうと言われて一旦停止する気持ちを端から三角に折る 丸本 ふみ P62 お元気そう、と他人から言われても 案外そうでもないと主体はわかっている。 「一旦停止」はやや硬い言葉ですが、かちっと固まった感じが出ます。 「三角に折る」という点が面白く…

塔2017年10月号 2

二人きりで生きてきたとでもいふやうに父と母ゐて墓買ひしを言ふ 小林 真代 P24 「二人きりで生きてきた」ということはないはずだけど、 でもそのような雰囲気でいる両親。 子にあたる主体にしてみたら寂しいし、奇妙な感じだろう。 「墓買ひしを言ふ」は年…

塔2017年10月号 1

塔10月号には興味深い評論が載っていました。 大岡信の書籍について3人の評者が書いていました。 私が特に興味を持ったのは沼尻つた子さんによる 『うたげと孤心』に関する文章でした。 ちょっと読んでみたくなりますね。 では月集から。 死者が手を洗えるご…

一首評 「鳥」

枝から枝へたぐるしぐさで生き延びてきみのてのひらを鳥と間違う 野口 あや子 『眠れる海』 今までの人生がとても危ういバランスに成り立っていたのだろうと思う。 「枝から枝へたぐるしぐさで」なんとか生きてきた その先に見えてきた「きみのてのひら」。 …

ぱらぷりゅい

「傘」という意味を持つ同人誌。 関西の女性たちが12人集まって発行しています。 (1回きりで終了らしいので、ちょっともったいない感じはしますが) 各人の12首の短歌が初めに収録されています。 この眉を蔑するもまた愛するも男だということ夜の紫陽花 江…

塔2017年9月号 5

やっと終わるよー。 なんか9月号は手間取った。 めずらしく君が怒鳴った夜だった私の中の水を揺らして 魚谷 真梨子 P154 夫か恋人か、ケンカして相手に怒鳴られたのだろう。 ふだんはめったに怒らない性格の人なのだろうから 怒鳴られたときのショックはかな…

塔2017年9月号 4

・・・・・・もう塔10月号がきました。 早いなぁ。って仕事ぶりがすごいです。 緩斜面下らせて背中見守りき自転車練習のあの春の日は 垣野 俊一郎 P104 前後に採用されている歌から、 息子が自動車免許を取得したことが分かります。 その歌の間におかれてい…

塔2017年9月号 3

加湿器の音を雨かと間違ひぬやさしき雨を待ちてゐるかも 潔 ゆみこ P59 加湿器の音が雨に聞こえてしまったのは、 主体の雨を待つ気持ちからくるのだろう。 静寂な中に聞こえる雨を思わせる音が しんみりした雰囲気を出しています。 ただ、このままだとすこし…

塔2017年9月号 2

眉間より息吐くようなオーボエの奏者に銀の嘴の見ゆ 山内 頌子 P24 「眉間より息吐くような」という比喩に迫力があります。 また「銀の嘴」という表現が面白く 銀色のキイがたくさん並んでいるオーボエの隠喩だと思いますが 「嘴」という言葉で 奏者が楽器と…

塔2017年9月号 1

眠りいる間に外れしイヤホンゆ車内にゴスペル滲みていたり 三井 修 P3 電車とかバスなど公共の乗り物のなかでのことかな、 とおもって読みました。 だれかが耳につけていたイヤホンが外れて、 乗り物のなかに「ゴスペル滲みていたり」という状況になっていた…

一首評 「物語」

烏瓜の揺れしずかなり死ののちに語られることはみな物語 松村正直 『風のおとうと』 松村正直氏の第四歌集。 今わたしが一番気合い入れて読んでいる歌集と言っていい! 今までの歌集のなかの歌の変化を思いながら ゆっくり読んでいます。 烏瓜というと、赤い…

塔2017年8月号 5

ふたひらの羽があるから蝶々は自由なのだと思い込んでた 八木 佐織 P160 蝶々の軽やかさから思い込んでいた自由だけど そうでないと気づくことがあったのでしょう。 蝶々のことを詠んでいながら、 主体の内面を見つめなおす歌になっています。 僕たちが存在…