波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「髪」

蜂の音ヘ振り向くあなたの長い髪、ひろがる、かるい畏怖みせながら

   千種創一 「連絡船は十時」『千夜曳獏』P54

近くで蜂の羽音がしたから、思わず振り向いてしまった相手を見ていて、その長い髪が広がる様に一瞬の美しさを見いだしているのでしょう。

 

実際には、ほんの一瞬の出来事なのですが、一首を読んでいる間は、スローモーションで再生したような、ゆっくりした動きを想像します。

 

「長い髪、ひろがる、かるい」と読点を用いつつ段階がある描写になっているので、ふわっとした髪の広がりを読む者にもイメージさせます。

 

振り向いた人は少し怯えていたのかもしれないけど、その表情や仕草に対して「畏怖」の語を与えることで、神々しさをも感じます。