波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「箱」

秋の雨あがった空は箱のよう林檎が知らず知らず裂けゆく  

          江戸雪「吃音」『空白』P30

 

10月にはたくさん歌集を読もうと思っていて、そのなかで読み終えた一冊が『空白』です。

 

秋の空は夏の空より、ずっと高く見えます。秋の雨が上がった後には、箱のようだとこの一首では言います。

 

例えとしては、きっと空っぽの箱で、がらんとした空間が上空に広がっているように感じたのでしょう。

 

林檎の実に入る亀裂。この世のどこかで発生している傷があっても、自分はそれを知ることはないか、または気づくのが遅れてしまう。

 

『空白』のなかには、怒りとか混乱、失望や喪失といったネガティブなイメージが多く詰まっているように感じました。

 

ネガティブな感情やイメージを直視しつつ、どうやって乗り越えていくのか。

 

そんな模索にあふれた一冊ではないかな、と読み終えて思っています。