係恋に似たるこころよ夕雲は見つつあゆめば白くなりゆく
*係恋=けいれん
*夕雲=ゆふぐも
佐藤佐太郎『帰潮』現代短歌全集第11巻 P361
「係恋」は、「ふかく思いをかけて恋い慕うこと」。そんな心情に似た気持ちを抱えて夕暮れの時間帯を歩いている。
夕雲なので、夕陽の色にそまって赤やオレンジ色など暖色系の色味になっているはずと思うのですが、ここでは「白くなりゆく」となっています。その前には「見つつあゆめば」という動作があります。
「係恋」とは言わず、「係恋に似たるこころ」というあたりがけっこう微妙な心理です。
単純に夕暮れの雲の色を描写しているのではなく、そのときの心理が反映されて、見ている者の眼にはだんだんと「白くなりゆく」なのかな、と思いました。
昭和22年(1947年)から始まる歌集の冒頭近くの一首です。戦争の傷跡が生々しい時期にどんな思いだったのか。夕雲の色味としては奇妙な感じもしつつ、立ち止まった一首でした。