波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「花びら」

冬の窓のひかり集めてひもときぬ借りて来し本のなかに花びら

真中朋久「雲頂」『雨裂』P53

静寂で美しい一首。借りてきた本を窓辺で開いた時に、目に入ってきた小さな花びら。

 

「ひかり集めて」で、あたたかな窓辺という場所がしっかり立ち上がります。

 

花びらは、春っぽいイメージなので、冬に読んでいる本から春の名残を見出すのが面白い。

 

かつて春に本にはさまったまま、いまこの瞬間まで潜んでいた花びらが、作中主体の目にふれることで、再び春のイメージとして認識される。

 

借りて来し本」なので、図書館から借りてきたのか、友人から借りてきたのか、どちらにせよ、自分の物ではなくて、他人の書籍のなかから花びら(春)を見つける、というのもちょっと面白い。

 

ふとした時に感じる季節や時間の断片。気づくのも歌に残すのも、ささやかなことですが、どこか豊かな時間です。