波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「影」

影を持つもののみがさびしさの影を曳く 蠟梅のめぐりにひかりは沈む

永田和宏「お母さん似」『午後の庭』P148

蠟梅はちょうど今頃咲いている、きれいな黄色の花。寒い季節なので、明るい色や美しい形、そして香りでとても存在感があります。

 

「影を持つもの」とは、少し迷いましたが、この世に生きているもの、生者かな…と思います。生きているからこそ、時に「さびしさの影を曳く」こともある。

 

美しい蠟梅の花ですが、そのまわりに「ひかりは沈む」とあります。「沈む」という動詞にも、少し陰りがあります。深々と光が射し込んでいる描写なのでしょうけど、もっと重みがある感じ。

 

生きている者が抱える喪失感や寂しさ、暗さ。それが歌集全体のトーンですが、ちょっとした明るさやユーモアも印象的な一冊でした。