波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「灯す」

〆鯖のひかり純米酒のひかりわが暗がりをひととき灯す

  田村元『昼の月』「梅の木」P77

自分の中の暗がりを一時的とはいえ、灯してくれるものが、人それぞれあるでしょう。

 

『昼の月』では圧倒的に、居酒屋や家で飲むときの酒や料理が、主体にとっての灯してくれるもの。

 

「ひかり」とは言っても、実際には、光源の明るさを反射してツヤがあるのであって、飲食物そのものが光っているわけでもないと思う。

 

それでも多忙な社会でサラリーマンとして生きていく主体を灯してくれるのは、多くの居酒屋での飲食であり、目の前の酒やなじみ深い料理なのだ。

 

歌集全体に漂うユーモアや含羞、なんとなく人柄が見えてくるような詠みぶり等、日常の中からひょいっと出てくる歌の面白さを味わえた1冊。