波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

京大短歌22号 その1

相変わらず大充実の同人誌です。
短歌、評論、京都歌枕マップなどどれも読み応えありました。
2回くらいに分けてゆるゆると感想など書いておきます。

止んで知る雨降ることの優しさをまた忘れては夕暮れる冬    朝比奈 新一

昼の雪に花ふる名前あたえつつあなたのゆきに花は降りつむ   北虎 叡人

ひるのゆめ 林檎がむかれてゆくときのらせんは逆光にのびてゆく  安田 茜 

 

一首目。止んでいるときに思う雨のやさしさを、
でも人はまたすぐに忘れてしまう。現実はせわしないためだろう。
最初に読んだとき、そのように思った。
でも「忘れては」の主語は主体から
「冬」という季節に変化していくようにも読める。

二首目も抽象的なイメージが魅力的な歌。
「昼の雪」から「あなたのゆきに」というイメージの広がりが美しい。
ひらがなのひらき方も効果的。

三首目は初句のひらがなの提示で雰囲気が出ている。
林檎の皮がするする伸びていく様子を
上手く描きとめたような一首。

晩年はそれと分からずあるだろう光に朽ちる洗濯ばさみ       牛尾 今日子

蟷螂を踏んでしまったことのあるひとたちだけの秘密つめたく    松尾 唯花

胸というもっとも炎に似る場所を人はストール重ねて過ぎる     坂井 ユリ 
つま先からタイツ履くとき引き寄せる昏くのたうつ波。に似たもの  大森 静佳

一首目は上の句の心情と、下の句の情景の組み合わせ。
「光に朽ちる」で上の句の「それと分からず」を強めている。

二首目は不気味さが少し残る一首。
うっかり蟷螂を殺した、という共通事項でくくられる人たちの
ひんやりした感触が後に残る。

三首目は「胸」と炎の類似性を描いていて面白い。
ストールを重ねる、という行為で自分のなかの
炎を守っているようにも思える。

四首目は女性が着替えるときに感じたことを
自然の光景のように切りとっている。
「波。に似たもの」という表現に
日常のささやかな一部を起点にして
広がるイメージがある。

被爆死の遺体を焼きし川原なり雪のはじめをわたる可部線  田中 濯

パレットの上に左の親指が曲げられてかるく色を支える   中津 昌子

硝子窓拭くに好適の新聞紙市況の欄を四折りにする     島田 幸典

可部線は広島のJR可部線
「雪のはじめをわたる」という把握がとてもいい。
いよいよ冬になっていく気候をとらえている。
広島には昨年の夏に行ったことがある。
そう、たくさん河川のある町だった。
日常のなかにひそかに続いている戦争の光景が
重なってうかんでくるときがあるのだ。

二首目はイタリアに行ったのかな、という連作のなかの一首。
木製のいかにも画家が持っているようなパレットだといいな。
「色を支える」という語がさりげないけど
描く、という行為がよくわかっている表現だと思う。

三首目は漢字の硬さが効果的。
「好適」「市況」などの熟語の硬さがいい。
新聞紙をきっちり折っている様子も浮かんでくる。