波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年8月号 3

被ったり脱いだりぱたぱた煽いだり楽しくなってくるヘルメット     阿波野 巧也  P60

働くようになって、ヘルメットを被ることがあるらしい。

現場の詳しい状況は一連からはあまりわからないけど

ヘルメット、という無骨なアイテムを詠みこんで

ちょっとコミカルに描いています。

被る、脱ぐまでは思い浮かぶけど

「煽いだり楽しくなってくる」というあたりに

軽いユーモアがあって面白い歌です。

ご愁傷さまです、の中に秋はありあなたはゆくのかなその秋を    安田 茜     P71

亡くなった方がいるから出てくる

「ご愁傷さまです」という言葉のなかにある「秋」に注目していて

言葉遊びの楽しさを含めつつ「あなた」への気持ちが込められています。

定型の言葉のなかの細部への注目から

相手への気持ちの寄せ方が自然で、

トーンは軽やかだけど、重層的なつくりになっていて巧みな歌です。

速達はいまごろ奈良を通過して海が右手に見えてくるころ    森永 理恵     P83

奈良という地名のあとに「海が右手に見えてくるころ」という点が

面白い歌です。読んでいる最中に

ぱっと景色が広がります。

速達の配達のルートに思いをはせながら

主体も一緒に移動しているような臨場感や楽しさがあります。

出る杭は打たるるという格言を知らぬ若竹の煮物はうまい    坂下 俊郎     P109

出る杭は打たれる、という言葉通り、

目立った振る舞いをすれば弊害は多いもの。

人間の社会でずっと言われる格言を筍にあてはめて、

まだ新しい間に収穫されて煮物になると

苦難を知る暇すらなかったのか

柔らかくておいしい、という発想へつなげている点が面白い。

ちょっと皮肉っぽい視点も感じます。