被ったり脱いだりぱたぱた煽いだり楽しくなってくるヘルメット 阿波野 巧也 P60
働くようになって、ヘルメットを被ることがあるらしい。
現場の詳しい状況は一連からはあまりわからないけど
ヘルメット、という無骨なアイテムを詠みこんで
ちょっとコミカルに描いています。
被る、脱ぐまでは思い浮かぶけど
「煽いだり楽しくなってくる」というあたりに
軽いユーモアがあって面白い歌です。
ご愁傷さまです、の中に秋はありあなたはゆくのかなその秋を 安田 茜 P71
亡くなった方がいるから出てくる
「ご愁傷さまです」という言葉のなかにある「秋」に注目していて
言葉遊びの楽しさを含めつつ「あなた」への気持ちが込められています。
定型の言葉のなかの細部への注目から
相手への気持ちの寄せ方が自然で、
トーンは軽やかだけど、重層的なつくりになっていて巧みな歌です。
速達はいまごろ奈良を通過して海が右手に見えてくるころ 森永 理恵 P83
奈良という地名のあとに「海が右手に見えてくるころ」という点が
面白い歌です。読んでいる最中に
ぱっと景色が広がります。
速達の配達のルートに思いをはせながら
主体も一緒に移動しているような臨場感や楽しさがあります。
出る杭は打たるるという格言を知らぬ若竹の煮物はうまい 坂下 俊郎 P109
出る杭は打たれる、という言葉通り、
目立った振る舞いをすれば弊害は多いもの。
人間の社会でずっと言われる格言を筍にあてはめて、
まだ新しい間に収穫されて煮物になると
苦難を知る暇すらなかったのか
柔らかくておいしい、という発想へつなげている点が面白い。
ちょっと皮肉っぽい視点も感じます。