波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「金貨」

金貨のごときクロークの札受け取りぬトレンチコートを質草として  
             光森裕樹『山椒魚が飛んだ日』

トレンチコートをクロークに預けるときに
質屋に預ける品物を指す
「質草」とは面白い表現です。
クロークの札が「金貨」を思わせるものだったことからの連想でしょうか。
ツヤツヤとした金貨、でもそれは
なにかと引き換えであるという点に
どこか危うさが潜んでいます。
大事なものを預けつつ質屋で工面する金と、
演奏会で過ごす時間とを重ねている点に
どこか乾いた感覚を感じます。