波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年4月号 5

ここがもう境界なのだ 花花に埋もれし君のほほえみ固し    佐々木 美由喜      168

初句と二句では何のことかわからないのですが
そのあとでだれか亡くなった人がいるのだ、とわかります。
相手は固いほほえみで花に埋もれている。
生きているものとすでに死んだものとの
決定的な境界の前にたっている時のシーンを
切りとっています。

差し入れたタイツが足のぬくもりになるまでを待って動き出す朝    魚谷 真梨子    169

まだ寒い季節なのでしょう。
タイツを履いた後、足にぬくもりを感じるまで
すこし間があります。
ちょっとした変化ですが
いい着眼点だと思います。
ただ、結句に体言止めで終わっているのですが
効果のほどはいまひとつかな、と思います。

なんとなく視線はづせり我がまへに裸婦が最後の布を取るとき     

白布のうへにしづかに並べられ供物のごとし裸足の指は       岡部 かずみ     170

ヌードデッサンの機会があったでしょう。
モデルさんは仕事なので慣れているけど、
全裸のモデルさんを前に、絵を描く側がどぎまぎすることってありますね。
「最後の布」や「供物のごとし」といった言葉の選択が
スムーズで無理のない運びです。
岡部さんの短歌では、微妙な心の揺らぎやざわつきを
うまく定着させているように思います。

握り飯持たせよときみは来週の暦の端に握り飯描く       川田 果弧       177

息子さんなのか旦那さんなのか、
手軽にすぐ食べられる握り飯を希望してカレンダーに書き込んでいる様子。
「握り飯」というちょっと荒っぽい言葉がいいな、と思います。
「暦の端に」という点もよくて
たぶん週末にどこかでかける必要があるのでしょう。
主体と相手の関係とか
相手の性格とかいろんな要素が浮かんできます。