まだ暑いよー・・・
塔8月号から見ていきます。
夏つばき地に落ちておりまだ何かに触れたきような黄の蕊が見ゆ 吉川 宏志 P2
木の下に落ちてもまだ存在感のある夏つばき、
たっぷりとした筆のような黄色の蕊は印象的です。
「まだ何かに触れたきような」が興味深い。
夏つばきの一輪にはまだ美しさや生命力が
残っているように感じます。
地面の色、白い花びら、黄色の蕊といった
色彩が鮮やかに浮かびます。
世の中はなんでこんなにさびしくて私がひとりスーパーにゐる 永田 和宏 P2
河野裕子さんがなくなってすでに7年経つ。
「なんでこんなにさびしくて」という無防備な言い方が
かえってしみじみと悲しい。
「私がひとり」という言い方は
なんだか舞台にたつ役者のような描きかたです。
「スーパー」という毎日の生活のために買い物をする場所という
身近な場所の選択に、とても実感があると思います。
何度目の春でしたっけ筍とセロリをトマトソースで和えて 山下 洋 P3
食べ物の色彩の美しさが印象的な歌です。
筍の白っぽい色とセロリの緑色と
トマトソースの赤色がぱっと浮かんで、
楽しい食卓のシーンが浮かびます。
「何度目の春でしたっけ」は
親しい方への呼びかけと取りました。
たぶんもう長く一緒に過ごしているので、
何度目の春かわからないくらいだけど
今年も同じように春の野菜をトマトソースで和えている、
そんなシーンだと思います。
名を呼べばはいと応へて立ちあがる四月十日のパイプ椅子より 梶原 さい子 P7
入学式かな、と思いますが
「四月十日のパイプ椅子より」がいい表現です。
その生徒にとっては一度きりの四月十日、
ちょっと緊張感のある日を描いています。
百本の白きワイヤー架かる橋春の河口にハープを奏づ 村田 弘子 P14
橋にワイヤーが多くかかっている光景は見たことがありますが、
ハープに見立てるとはダイナミック。
無機質な橋のワイヤーから
美しい音色を奏でる弦楽器に転化する
発想が楽しい一首です。
アン・シャーリー初の誂えのドレスなら葡萄色とおもう春の山路に 山下 泉
*葡萄=えび P14
想像力の豊かさを持っている女の子でした。
憧れのドレスには色も形も大変なこだわりがあったはず。
「葡萄色」という深みのある赤紫色にも
きっと楽しい想像をふくらませたろうな、と読んでいて嬉しくなります。
「春の山路」には「葡萄色」を思わせる植物があったのか、
自然や季節の美しさからアンの「葡萄色」のドレス、
しかもはじめて誂えるドレスへの発想のふくらみが楽しい。