花の図鑑、ではなくて葉の名前知るためだけの図鑑がほしい 石松 佳 P160
花の図鑑はいろいろあるけど
葉に注目しているところがとてもいいと思います。
「花の図鑑、ではなくて」の読点でちょっと目を引いて、
そのまま次の内容へと引っ張っていきます。
どのページをめくっても
いろんな葉が並ぶ図鑑、
花とはまた違う魅力があります。
立ち漕ぎの自転車の子がパーカーのフードをかむるほどのはるさめ 篠野 京 P189
「立ち漕ぎの」といった注目に作者の視点のよさがあります。
「パーカーのフードをかむるほど」といった具体的なもので
春の雨のおだやかさを想像させるあたりに広がりがあって、魅力的な歌です。
「はるさめ」というひらがなの表記も歌の雰囲気と合っています。
数が名をなす不思議さを便覧にしみじみと見き直木三十五 福西 直美 P189
数がそのまま名前になっている人名ってたしかにあって
とても不思議な感じがします。
直木賞の名の元になった作家の名前をもってくることで
代々、賞のなかに根付いている名前の重さをも感じます。
しろい火、とどこかで言えり夕闇のひとところ雪柳しだれて 中田 明子 P189
夕闇のなかで垂れている雪柳は
たしかに白い火のようです。
闇の濃さと雪柳の白さの対比が美しい。
「ひとところ雪/柳しだれて」の句またがりも
静かな緊張を伴います。
ジャガイモはもう植えたかとたずねあう花のさくころまでのあいさつ 高原 さやか P 199
ジャガイモを植えたかどうかが挨拶、というのは
農業をやっている人ならではの感覚があって
興味深い内容です。
お互いに「たずねあう」というあたりに
おなじ季節を生きているもの同士、と言った感じがあります。
下の句のひらがなの多さで
やわらかい雰囲気が出ています。