波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

2015-01-01から1年間の記事一覧

河野裕子・永田和宏 「たとへば君」

河野裕子さんはとても著名な歌人ですが、2010年に乳がんのために他界されています。 具体的な闘病の様子については、ほかの著作により詳しく書かれています。 「たとへば君」では、ご夫婦の最初の出会いのころや結婚した後の生活、子供の誕生、アメリカでの…

角川「短歌」 9月号

今回も公募短歌館で2首採用していただきました。 秀逸 (伊藤一彦 選) 栞紐ぬきとるごとくなやみごと言ってしまえば空とは表紙 佳作 (秋葉四郎 選) おもいでは頁のすみから零れおちだれかのために余白をあける これはたしか「葉ね文庫」さんに行った後に…

「エフライムの岸」と旧約聖書

ちょっとおまけで記事を追加です。歌集のタイトルになっている「エフライムの岸」は旧約聖書に出てくる『士師記』のなかのシーンにちなんでいるそうです。 シイボレト(つぎ)シイボレト(言つてみよ)シイボレト(ゆけ)シボレト(ゐたぞ) 真中朋久『訛音…

真中朋久 「エフライムの岸」

今回は真中さんの第4歌集です。カバーのざらりとした質感が印象的。 ■死と死に至るまでの歌 生者死者いづれとも遠くへだたりてひとりの酒に動悸してをり 冬のグラスに色うつくしき酒をそそぎふるき死者あたらしき死者をとぶらふ 死の間際に受け入れる罪サン…

一首評 「フォーク」

正しさって遠い響きだ ムニエルは切れる、フォークの銀の重さに 千種創一 「keep right」 2年前の塔新人賞の受賞作。すごく好きで何度も読んだ作品でした。シリア内戦をベースに組み立てられた連作で、そのなかのひりひりした空気が印象的でした。 「正しさ…

一首評 「新蝉」

恋ひ恋ひて損はれゆくわたくしと新蝉の羽根に降る朝の霧 米川千嘉子 「夏樫の素描」 *蝉は本当は旧字ですが環境依存文字なので代用しています。最近読んでいた「米川千嘉子歌集」から。相手を思う気持ちが強すぎるのか、どこか欠落していく「わたくし」とま…

一首評 「バラ」

贈りたきわたしのバラの四、五本のわたしを除いた部分を贈る 渡辺 松男 「まぶたと息と桑の実のジャム」 今回は角川「短歌」8月号の巻頭作品から。「わたしのバラ」というと自分の庭で育てたバラみたいなイメージがあるんですけどね、贈るにあたってわざわざ…

角川「短歌」 8月号

角川「短歌」8月号の公募短歌館で2首採用していただいたのでちょっと紹介しておきます。 特選 (佐伯裕子 選)花と空まぜてしまおう 自転車で細い砂利道に傷あたえつつ 佳作 (伊藤一彦 選)さよならは切符のかたち いつまでもポケットのなかで揺られていた…

はじめて塔の歌会に行ってみた。

先日、はじめて塔短歌会の歌会に参加してみました。私にとって歌会の参加って、ほんとにこれがはじめて・・・・でした。 ざっくり感想を書いておきます。

佐藤弓生 「モーヴ色のあめふる」

自分ではとても描けない幻想的な世界に惹かれることってありますね。今回は佐藤弓生さんの「モーヴ色のあめふる」を取り上げます。 ■なにかと接する面をとらえた歌 天は傘のやさしさにして傘の内いずこもモーヴ色のあめふる人は血で 本はインクで汚したらわ…

真中朋久『重力』

今回は真中朋久氏の第三歌集『重力』を取り上げてみます。やや重めな内容の歌も多いのですが、読み応えのある歌集だな、という印象です。

真中朋久『エウラキロン』

今回は真中朋久氏の第二歌集「エウラキロン」を取り上げてみます。

角川「短歌」 7月号

角川「短歌」7月号の公募短歌館で短歌を採用していただきました。秀逸 (伊藤一彦 選)たけのこの皮はぎながら語りだす今日はおたがい素直になれる佳作 (沢口芙美 選)言いそびれたことを溶かそう 酒粕をつかいきったらもう春ですね春のおわりに詠んだ歌で…

真中朋久『雨裂』

最近、真中さんの歌集をずっと読んでいました。今回は第一歌集『雨裂』を取り上げてみます。 真中さんは気象予報士として働いていたそうで、短歌のなかに気象用語や天候にまつわる発想がでてくるのが面白く、また印象深いものが多かったです。 実際の仕事の…

一首評 「アメンボ」

アメンボの肢の下には滅ぼされ水に沈んだ僧院がある 吉川宏志 「吉川宏志集」 今日は梅雨の合間のいいお天気でした。昔は水たまりでよく見たんだけどなぁ、アメンボ。アメンボのあのほそーい肢のしたに、かつては立派だったろう「僧院」があるという歌。はじ…

一首評「手紙」

ひとりならゆっくりわかる貰いたくもない手紙によく似ていた人 柳谷あゆみ 「ダマスカスへ行く」 もらってもうれしくない手紙はなんだか気持ち悪い。べつに覚えていたくないのに記憶のかたすみにひっかかってたまにちらつくことがある。そんな手紙に似ている…

一首評 「金魚」

音のなき夜を迎えていまここにこころにしずむ金魚のうごき 「蜂のひかり」内山晶太(短歌研究2013年7月号) 久しぶりに眺めていた雑誌の頁のなかに見つけた一首です。「いまここにこころにしずむ」のリズムにとても惹かれます。夜の闇と金魚のあかるい色の対…

「Tri」の感想メモ

先日、短歌史について書かれた同人誌「Tri」を購入しました。短歌史をあんまり知らないので、「Tri」も読んだけどよくわからない部分も多いのですよ・・・。(←勉強不足・・・)『現代短歌史』が60年代末で記述が終了していて約50年、半世紀分の記録が…

ひぐらしひなつ 「きりんのうた。」

今回はひぐらしひなつさんの「きりんのうた。」を取り上げます。2003年に出版された歌集ですが、私が手に入れたのは数年前です。当時、繰り返し読んでいた1冊です。 いいかけで終わる歌 骨と骨つないでたどるゆるやかにともにこわれてゆく約束をコントラバス…

一首評 「錠剤」

口移しでわけあう錠剤 明日こそ拙い文字の手紙がとどく ひぐらしひなつ 「きりんのうた。」 最近読みかえしていた歌集から1首。 「錠剤」は最初はカプセル状の薬なんだろうと読みました。サプリメントかもしれません。恋人か、そのくらい親しいひととの戯れ…

中崎町をお散歩

先日訪れた中崎町にはいろんな変わった店があって、ちょっとだけ写真に撮ってみました。 ・・・・なんかもう、不思議な世界・・・・・。 これは書肆アラビクさんの入り口付近。かなり昔、カフェの本かなにかで紹介されているのを見たような・・・。葉ね文庫…

「葉ね文庫」さんに行ってきました。

先日、大阪・中崎町にある葉ね文庫さんにおじゃましてきました。 短歌、俳句、川柳の本などあつかっている素敵な本屋さんです。 中崎町駅からは2番出口出てすぐです。 サクラビルというふるいビルの1Fにあります。 はい、このビルの入り口をはいってそのま…

江戸雪 「江戸雪集」

今回は江戸雪さんの初期の作品をおさめた「江戸雪集」をとりあげます。 いつのまに信じられなくなったのかフロントガラスにとけるだけ 雪スカーフに風からませてどこへでも行けると思う今ならば でもひきだしの死角のようにいるひとを思い出せなくなるまで、…

一首評 「雲雀」

そしていま晴れ晴れとした一発の誤射としてぼくは飛びたつ雲雀 ひぐらしひなつ 「ひぐらしひなつ短歌bot」 しばらく前からツイッターのTLに流れてくる短歌に「ひぐらしひなつ短歌bot」があります。歌集「きりんのうた。」以降の歌をつぶやいてくれる…

一首評 「受話器」

雨はやみたとえばひとの声のするくろい受話器のような夕闇 江戸 雪 「江戸雪集」 ぱらぱらとページをめくっていて目が留まったのはこの一首。携帯電話やスマホが当たり前になったので、「受話器」っていう言葉はいまはかなり印象が薄れたかもしれません。オ…

「古典和歌入門」

久しぶりに岩波ジュニア新書を読んでみました。 「古典和歌入門」渡部泰明 未知の分野や難しそうな分野への入門書としては岩波ジュニア新書、読みやすくて大人にもおすすめです。 古典和歌は古文の時間に学んだはずですが、あんまり印象に残っていません。(…

一首評 「螢」

見つめ合う時の深さを計れずに螢見に来てわずかに憎む 梅内美華子「梅内美華子集」 新しく読みはじめた歌集のなかで、気になった歌です。 いまひとつ思いどおりにいかない恋が背景にあってかみ合わない関係を「わずかに憎む」若いときの恋愛ならよくあるんじ…

一首評 「海」

やはりあなたもここへ戻ってきましたかエレベーターは深い海です 松村正直 「午前3時を過ぎて」 いまひとつわからないけど惹かれる歌というのもときどきあります。 初句の「やはり」が強い言葉です。「あなた」もきっと同じ場所へもどってくるのだろう、とわ…

一首評 「種子」

天界にひとつ穀物の種子置きて春の地上はどこまでも風 中山明 「猫、1・2・3・4」 中山明さんの短歌はずっと前から好きで憧れている世界のひとつです。「天界」という神々しいイメージの世界に置かれる小さな種のひとつぶ、見下ろせば地上の大地に吹いて…

一首評 「なのはな」

なのはながなつのつなひくまひるです愛の向こうに人影がある 東直子 「東直子集」 東直子さんの歌はひとから教えてもらったのです。「東さんの短歌も、かわいいんだ」ページを開くと、いままでに私が好んできた短歌とはまた違う世界がありました。 ひらがな…