波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「錠剤」

口移しでわけあう錠剤 明日こそ拙い文字の手紙がとどく
           ひぐらしひなつ 「きりんのうた。」 

 

最近読みかえしていた歌集から1首。

「錠剤」は最初はカプセル状の薬なんだろうと読みました。サプリメントかもしれません。
恋人か、そのくらい親しいひととの戯れのような振る舞い、どこか病んだような感覚を感じるのです。

「拙い文字の手紙」を書いたひとはだれなのか、それは分からないです。
わたしが書いた手紙がだれかのもとにつくのか、
だれかが書いた手紙がわたしのところにとどくだろうと知っているのか、
「拙い文字」がつづる内容はどんなものなのか・・・。
「手紙」にはそれを読むものにとって、
なにか決定的なことが書かれているんじゃないかという
不安めいた気持ちをごまかすために、「錠剤」をわけあっているんじゃないかと思うのです。

やがて受け止めないといけないだろう「明日」の存在を
ごまかそうとしているような現在の行為が、なんだかいびつな印象を放っています。