波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評 「なのはな」

なのはながなつのつなひくまひるです愛の向こうに人影がある      
       東直子 「東直子集」 

 

東直子さんの歌はひとから教えてもらったのです。
「東さんの短歌も、かわいいんだ」
ページを開くと、いままでに私が好んできた短歌とはまた違う世界がありました。

ひらがなばかりの上の句がとてもゆったりしていて心地いいこの一首に
今日は目が留まりました。
「なのはな」「なつの」「まひる」といったア音のひびきが
なのはなの黄色のイメージと重なり、明るくて気持ちいい。
でも下の句では一転、不安や哀しみが見て取れます。
人影がだれかはもちろんわからないけど、
むかし傷つけたひと、傷つけられたひと、
ぼんやりと像を結びます。

 

東さんの歌はその独特の感覚に支えられているのかな。
簡単に意味やシーンはわからないのだけど、不思議と印象に残ります。
つかまえられるかと思ったら、するりと泳いでいってしまう魚のように
東直子さんの歌はふわりとした感触があります。