波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「鍵」

鍵穴にふかく挿すときしあはせと思ふだらうかすべての鍵は

 千葉優作「Phantom Love」『あるはなく』P87

鍵は鍵穴に挿して使わないと、意味がないアイテム。ドアを開けるときに行う日常の行為の中に幸福感があるのかどうか。

 

ある鍵穴には、当然、それと合う鍵が要る。対になっている以上、符合すればドアが開く。ある種、満たされる感覚かもしれない。

 

叶わない恋を歌った長い連作の冒頭にあるので、恋愛の比喩だろうとも思います。全体に喪失感や自分には手に入らないものが繰り返し詠まれている歌集でした。

 

詩的な語を用いつつ詠むのがベースの作者のようですが、私は、日常で使うアイテムを用いた歌に着目しつつ、歌集を読みました。