波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2017年1月号 1

月集から。今回から表紙が変わったのです。配色が渋めで素敵。 高麗黍阿蘭陀大麦なかんづく唐唐土のはるかなるかな *高麗黍=かうらいきび 阿蘭陀大麦=うらんだふいん 唐唐土=たうもろこし 真中 朋久 P7 今回の真中さんの詠草は読者の知識を刺激する一連…

塔2016年12月号 5

若葉集。やっと終わるよー・・・。もう塔1月号が届いたよー。 カーテンの隙より入りし月光を浴びたる肩より露草となる 水野 直美 189 とても幻想的で美しい一首です。「肩より露草となる」という描写で神話みたいな美しさがあります。肩というパーツの丸みと…

塔2016年12月号 4

塔12月号 作品2から。こちらは後半。 したような気がするこんな口づけをパックの牛乳流し込むとき 太田 愛 143 初句の大胆な入りかたがとても印象的な歌です。どう続くのかな、と思って読んでいくと、「こんな口づけをパックの牛乳流し込むとき」ときます。…

塔2016年12月号 3

塔12月号 作品2から。まず前半。 廃校の名を遺したる停留所二つありたり町に入るまで 富田 小夜子 P100 バスに乗っていて、町にたどり着くまでの間に「廃校の名を遺したる停留所」が二つある、という描写は淡々としていますが、現在の少子化の一面を端的に切…

塔2016年12月号 2

作品1から取り上げます。 しっぽまで餡の入った鯛焼きのようなる人の自慢のしっぽ 白水 麻衣 P34 「しっぽまで餡の入った鯛焼き」は嬉しいけど他人の自慢話はあんまり楽しくない。きっと話相手はとても自慢話が好きな人なのだろう、と思いました。ちょっと皮…

塔2016年12月号 1

なんとか続けましょう。塔2016年12月号からいいな、と思った歌を取り上げます。 今回は月集から。 一生のその殆どが幼年期なること羨し蟬声を聞く 山下 洋 蝉の一生がはかないものであることはよくいろんな作品のモチーフになっていますが、「幼年期」への着…

塔2016年11月号から 11

11月号の紹介、終わったなーとか思っていたら月集をとばしていますね。いや、別にわざとじゃなくて思いつきで新樹集から始めた都合、次のページに進んでいっただけです・・・・。 ネクタイをまた締めてゆく秋となり小鮎のような銀で挟めり 吉川 宏志 P2 たし…

塔2016年11月号から 10

塔2016年11月号の若葉集・山下洋選歌欄から。 遠いところは遠くにあったあの頃の茶の間のテレビに奥行きがあり 竹田伊波礼 P195 「茶の間のテレビ」はもうレトロなアイテムになりましたね。今から考えると不格好なほどの奥行きがありました。当時よりも情報…

塔2016年11月号から 9

塔2016年11月号の作品2・三井修選歌欄から。 むらさきの淡き桔梗の花びらにむらさきの濃き筋目あり、雨 清水 良郎 P172 一輪の桔梗のなかの紫の濃淡に着目している観察がとてもいい。結句の「、雨」も面白く桔梗の花びらを雨滴がつたっていく様子が浮かびま…

塔2016年11月号から 8

塔2016年11月号の作品2・小林幸子選歌欄から。 記憶とはむしろ細部のことばかりくびすじ蒼きひとでありたり 中田 明子 P157 毎回巧いのが中田さん。人間はどんどん忘れていく。記憶はまさに断片として残っていく。「くびすじ蒼きひと」はなんだか儚い印象を…

塔2016年11月号から 7

塔2016年11月号の作品2・永田淳選歌欄から。 塔という結社にいます、タワーの。と言いつつタワーを形づくる手 逢坂 みずき P145 なんだかおかしかった一首。所属している短歌結社のことを説明するのにどう説明しているのか、生き生きと描写しているのがいい…

塔2016年11月号から 6

塔2016年11月号の作品2・江戸雪選歌欄から。 モノクロの人ら行き交う五番線ホームの朱きポスト黙せり 岡村 圭子 P129 「モノクロの人ら」はたぶんスーツなどダークトーンの服装なんだろう。人がモノクロであるのに対して、ポストの色がやけに鮮やかで、物体…

塔2016年11月号から 5

塔2016年11月号の作品2・栗木京子選歌欄から。 きみが手にきつと触れしと図書館の茂吉の棚に今日も来てをり 広瀬 明子 P114 慕っているひとがおそらく読んだだろう本がある棚の前にまた来ている、一途なシーンだなと思います。ただ「きみが手にきつと触れし…

塔2016年11月号から 4

塔2016年11月号の作品2・花山多佳子選歌欄から。 梅ゼリーの梅に手つけず子供らは草履引っ掛け虫捕りに行く 矢澤 麻子 P99 夏休みの子供たちの様子を詠んだ歌が詠草のなかにありました。「梅に手つけず」という描写で食べ物の好みだけでなく、なんとなく性格…

塔2016年11月号から 3

塔2016年11月号の作品1・池本一郎選歌欄から。 ボートにも乗つたねカメラ忘れたね百年生きたといふやうに言ふ 大塚 洋子 P87 ゆったりした雰囲気がとても魅力的な一首です。遠い昔のデートを懐かしむような言い方だと思いました。「乗つたね」「忘れたね」と…

塔2016年11月号から 2

塔2016年11月号の作品1・永田和宏選歌欄から。数字はページ数です。 お互いの屋根裏部屋を少しずつ見せ合うように手紙を交わす 白水 麻衣 69 いままさに親しくなりつつある人でしょう。だんだんとお互いの内面を見せていく様子を「屋根裏部屋を少しずつ見せ…

塔2016年11月号から 1

塔を読みつつ、いいなと思った歌には○をつけていきます。(ダメだろ、って思った歌には×つけていきます) 合評が終わった後なんで塔のなかのいいな、と思う歌をどうしようかな、と思っています。試みに欄ごとに印象に残った歌を取り出していってみましょう。…

塔10月号の感想 その2

塔10月号で連載50回になる「中東通信」が終了しました。 中東在住の千種さんによるエッセイと短歌の連載でとても興味深い内容でした。 屋台のスイカが大きくて甘いこととか、床屋のおじさんとの会話とかちょっとした日常の断片から見えてくる景色がとても好…

塔10月号の感想

久しぶりに塔の感想をあげておきましょう。 って10月号は2年に一度の「10代20代特集」・・・ 私が塔に入って2年経ったのね^_^; うーん、早い。 今回は合評をやっていて注目した方の短歌を取り上げてみましょう。 図書室の図鑑に眠る青い蝶狭い世界の中を生き…

塔の合評を終えて考えたこと

今年の7月から12月号まで、塔誌上の合評に参加していました。(実際に批評を書く範囲は5月号から10月号まで)塔に載っている作品をいくつか取り上げて、二者間で批評していくというスタイルで執筆しました。 まずは半年間、なんとか終わったぞ、っていう気分…

塔2016年5月号の感想

5月号の塔には評論「五年目の諸相―東日本大震災から五年の歌を読む」が載っています。東日本大震災を詠んだ短歌を5年という時間を軸にして梶原さい子さんが論じています。 5年、とは短いようで一区切りついてしまう年月の単位です。なにも解決はされないけれ…

塔4月号の感想 その2

塔4月号でもうひとつ面白かったのは浅野大輝さんの評論『「定型っぽく読める」を考える』です。(「っぽく」に傍点あり) 破調の構造を持つ歌なんだけど「定型っぽく読める歌」を取り上げて、なぜ破調構造があるのに定型に収まっているかのように読めるのか…

旧月歌会に行ってみた&塔4月号の感想

さて先日、ついに旧月歌会といわれる歌会に行ってみました。出不精の私にしては大きな決心。旧月歌会は30名くらいいる参加者のうち、4~5名が選者という怖い豪華な歌会です。 歌会によって批評の方法って違うのね。今までに参加した歌会では「いいな」と思っ…

「塔」2016年2月号を読んでいて  その2

塔2月号には「短連作」という5首程度の短い連作についての特集が組まれています。これが大変に面白かった。ちょうど最近、連作について考える機会があったので、感想をすこし上げておきましょう。 * 私の短連作「雪とえんぴつ」も掲載していただきました。 …

「塔」2016年2月号を読んでいて

たまには自分が所属している結社誌を読んでいて気づいたことなど。メモですが。 塔2月号の「青蝉通信」に若山牧水が比叡山に登って山寺に滞在した時の話が載っている。寺にこもった牧水が貧しい老人と一緒に酒を飲んだ話や吉川氏が今年の正月に実際に比叡山…