波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔4月号の感想 その2

塔4月号でもうひとつ面白かったのは
浅野大輝さんの評論『「定型っぽく読める」を考える』です。
(「っぽく」に傍点あり)

破調の構造を持つ歌なんだけど「定型っぽく読める歌」を取り上げて、
なぜ破調構造があるのに定型に収まっているかのように読めるのか
を考察しています。
一字、二字の字余りならあまり気にならずに読めるケースももちろんあります。
でも大きく音数が増えていて、句がまるまる増えていると
私は「定型からはみ出し過ぎて、なんとなく生理的に気持ち悪いな」と感じることがあります。
(もちろんその気持ち悪さが演出として効果的な作品もあるのでしょう)

マグカップ落ちてゆくのを見てる人、それは僕で、すでにさびしい顔をしている
      千種 創一 「風化は三月のダマスカスにて」『砂丘律』

 

この歌も浅野さんによれば「見方によっては
短歌定型的韻律に落とし込んで読むことが無理ではない」となっています。
句切れがもたらす作用について考察したうえで
句が増加しているほどの破調構造がある歌でも
一応、定型に従って読める理由を明らかにしています。

挙げられている例がもっと多かったら
より説得力が上がるかなと思いつつ、面白く読みました。

ちらっと感じた疑問としては例えば、フラワーしげるさんの
長いといわれる短歌はどうとらえているのかなと思います。

今後またさらに詳しく論じた内容を読んでみたいですね。

      *

選者の歌人が書く短い「選歌後記」がけっこう楽しみです。
選者がどんな視点で歌を選んでいるのか
ちょっとしたヒントが書かれているので
よく読んでおくと自分の実作にも生かせそうです。
読んでいくときに気になった箇所にボールペンでチェック入れていきます。
今回は真中朋久さんの選歌後記に多くチェックが入りました。
やや抽象的な歌に対しては次のようなコメントがありました。

夢幻や観念であっても、どこか実感を刺激するところがあるとよい。(p90)

私もわりとイメージに頼った歌を詠草で出しているので、
この指摘にはちょっとぎくっとしました。気をつけよう・・・。