波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2016年12月号 2

作品1から取り上げます。

しっぽまで餡の入った鯛焼きのようなる人の自慢のしっぽ       白水 麻衣    P34 

「しっぽまで餡の入った鯛焼き」は嬉しいけど
他人の自慢話はあんまり楽しくない。
きっと話相手はとても自慢話が好きな人なのだろう、と思いました。
ちょっと皮肉っぽいユーモアがあって面白い一首です。

 

豌豆のあとはゴーヤを支えたる夫の残した結び目ほどく        吉川 敬子    P41

夫をなくされたらしく、農作業などを引き受けて、
続けていかなくてはならない日々を詠まれています。
「ほどく」の語の選択に、悲観的なだけでない、
心のひだを掬い取ったような魅力を感じます。

話を聞くことが仕事でありし日の耳をわたしは失いてゆく      金田 光世    P46

仕事に就いていたころにはだれかの話を聞くことが
とても大事だったはずですが、
その仕事を退職なさったのでしょう。
かつての仕事から遠ざかっていく日々の感覚を
「耳を」失っていく、としたことで
余韻の残る歌になりました。

どんな歯を磨いていたか歯刷子に生前という時間はあらず     永田  愛     P51

駅のホームに落ちている歯刷子に注目した一連でした。
たしかにだれかが使っていた歯刷子だけれど、
その時間はだれからも気にされない。
「生前」という厳かな一語をもってくることで
使っていただれかの時間の一部を想像してしまいます。