波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

塔2016年12月号 3

塔12月号 作品2から。まず前半。

廃校の名を遺したる停留所二つありたり町に入るまで       富田 小夜子  P100 

 バスに乗っていて、町にたどり着くまでの間に
「廃校の名を遺したる停留所」が二つある、
という描写は淡々としていますが、
現在の少子化の一面を端的に切りとっています。
「二つ」という数字に重みがあります。

汚れたままの足投げ出して昼寝する洗濯物はとりあへずそこ    小林 真代     P106

「とりあへずそこ」という投げ出すような
言い方がとても印象に残りました。
毎日忙しいなか、合間に昼寝をして休息を得るのでしょう。
「汚れたままの足」「投げ出して」という
あけすけな描写も潔くて、気持ちいいくらいです。

寝たきりのあなたの見ている手鏡の中に揺れ入るさるすべりの花     川並 二三子   P114

今号には、さるすべりを詠んだ歌がいくつかありました。
この歌のなかでは、手鏡を通して百日紅を描いた点に注目しました。
しかも「寝たきりのあなたの見ている手鏡」のなかです。
小さな鏡のなかにゆらゆらと咲く百日紅
そばで見ているだろう主体にも「あなた」にも
ささやかな夏の光景です。

頑固者すくなくなりぬ瓶底に塩を噴きたる梅干ふたつ      小圷 光風      P122

昔ほどの頑固者は確かに少なくなったかもしれないですね。
梅干も、昔ほどの塩気を感じるものは少なくなったかも。
「塩を噴きたる梅干ふたつ」には
かつてよくいたものへの哀惜や
親しみみたいな感情があると感じました。

水遣りをたっぷりとして秋の気は奥へ奥へとトンボを去らす    大野 檜    P130

今回の大野さんの詠草、私は好きな歌が多かったです。
庭か公園の水やりかな、と思います。
空気の湿度や温度の変化を
トンボの動きに託して詠むことで
のどかな動きのある一首になっています。
「秋の気は」とまで詠んだ点に注目しました。
秋の澄んだ空気に変わりつつあるなか、
奥行きを表現していることで、空間の広がりが出ています。