波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「鉋」

早春の棟に大工が一人いてしきりに光に鉋かけいる

 三井修「白犀」『海図』P70

早春の頃なので、ちょうど今頃かな。急に暖かくなったり、また寒くなったりして、なかなか厄介な気候です。


冬から春へ、季節の変化が感じられる時期の屋外に、大工が一人だけで作業をしている。

熱心に仕事をしている様子が詠まれていて、その表現が「しきりに光に鉋かけいる」。

 

「光に」という点がとても優れていて、おそらく下方から見上げているだろう作中主体には、大工の手元の屋根の棟が光って見えたのだろう、と思います。

 

まだ少し寒さや冷たい風のある時期。手元の鉋を盛んに動かしている動きが簡潔に詠まれていて、ちょっとした日常の一コマを見逃さない、そんな一首です。