波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「紋」

みづからのからだに刻む紋ありてななほしてんたうの昏き夏

  「沼」『ナラティブ』P205 梶原さい子

てんとう虫の模様は水玉みたいで、可愛らしいイメージだと思っています。

 

てんとう虫に生まれた以上、その模様を背負って生きていくことになるのですが・・・「刻む紋」と言うと、自らの意思で刻みつけた刻印みたいな感じに思えて、どこか痛ましい。

 

「刻む紋」「昏き夏」には漢字、ほかはひらがなというバランスもいい。

 

「沼」という連作の一首目にあり、沼のひんやりした、やや暗い雰囲気と通う部分があるとも思います。

 

おもしろいねえ生きてゐるいつまでも背中に沼が残つてゐる

   「沼」『ナラティブ』P208 梶原さい子

 

「沼」の一連には、終わりにこんな歌もあります。「おもしろいねえ」が、なんだか河野裕子さんっぽい。

 

下の句がなんとも不思議なのですが、冒頭のてんとう虫の一首を改めて考えると、自身も背中に紋があるごとく「沼」に象徴される何らかの暗がりを抱えて生きる、という意味ではないかな・・・?と思うのです。

 

それでいて、「おもしろいねえ」なので、そんなに悲観しているわけでもなさそう。

 

沼という暗がりを意識しつつ、それでもどこか割り切っているような、達観しつつあるような、そんな境地を『ナラティブ』全体にも感じたのでした。