波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「果実」

雨あがりの果実のごとく試料容器を籠に集めて帰り来にけり  

 *試料容器=ポリビン    

真中朋久『雨裂』「pH3・6」 現代短歌文庫P22

 

仕事で使用した「試料容器(ポリビン)」を集めて持って帰ってきた、というシンプルな内容の歌ですが「雨あがりの果実のごとく」で果物狩りに行って帰ってきた、みたいなイメージになります。

 

水滴が付いた、みずみずしい果物のハリや色合いを思い浮かべます。イメージがはっきりとしていて、鮮やかな直喩。『雨裂』のなかでも特に好きな歌のひとつです。

 

試料容器は、ポリエチレン製の白っぽい容器のこと。それ自体はごく単純なアイテムですが、比喩によって美しい色合いを帯びてきます。

 

環境調査の仕事やアイテムを詠みながら、一首の中にどこか叙情や美しさを漂わせる点が巧み。

 

    *

 

真中さんの第六歌集『cineres』が最近、刊行されました。今年中に何度も開く歌集になりそうです。

 

初期の作品から現在まで、どんな変化をたどってきたのか。そんなことも思いつつ読んでいきたいです。