波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「画布」

いづかたの岸にも着かずたゆたへる長き月日を画布に見てをり    

「不在の在」『たましひの薄衣』菅原百合絵 P118

ひとつ前に「モネの描く池」を詠んだ歌があります。池には捨てられた小舟。

 

小舟はもうどこの岸にもつかない。

 

この歌の中で見ているのは、小舟や水ばかりではなく、画布の中に閉じ込められた歳月。

 

一枚の画布には描かれたあとの時間が凝縮されています。画家が切り取った、水辺の風景と、その後の時間。

 

しばらく見ている間に、絵の世界に馴染んでしまって、現実にもどってくるのに時間がかかりそう。

 

美意識で構築された本歌集の中の時間はとても静謐で豊か。ゆっくり何かと向き合う。そんな対象を持つことの豊かさを感じます。