波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「影」

影のなかは影しか行けぬ 旧道のけやきに夏がめぐつてきたり

梶原さい子「白きシャツ」『ナラティブ』P129

暑い夏には、影もひときわ濃い。「旧道のけやき」という、おそらく馴染みのある風景の地面には、けやき並木の濃い影が連なっているのでしょう。

 

主体が旧道を歩いているとき、地面の木の影になじむのは、歩いている人の影のみ。

 

樹木の動かない影に、歩くひとの動く影が重なって「影のなかは影しか行けぬ」で、境界がなじんでしまう影を思い浮かべます。

 

夏という季節ならではの明暗の強さを描くことで、読者の中の夏の暑さや鮮明さを呼び起こします。