「信じるのはやめてください」温室に冬汗ばみて読む花ことば
杉崎 恒夫 『食卓の音楽』 P35
「信じてください」といった類の言葉は何度も見たことがあるのですが、「信じるのはやめてください」という願望は、目にした覚えがありません。
こんな花ことば、あるんだろうか。仮になかったとしても、拒否の言葉として印象深い。他人からの信頼を断るというのは、かなり強い拒絶だと思います。
歌のなかに詠まれているのが、植物には厳しいだろう冬という季節、そして温室という一種の仮の空間のなかです。
冬の温室は、本来の寒い季節とは矛盾した空間です。あえて人工的に作り出した空間内で、「信じないで」という言葉を受け取る。
「信じる」という、難しいはずなんだけどわりと安易に使われている言葉を、あえて否定形の要求にしたことで、言葉を受け取った側は立ち尽くすしかないような孤独を持つのでしょう。
この歌からは、植物や花ことばに託しつつ、目の前にある存在を、信頼をする/しないの選択の怖さを感じるのです。