つつかれてヨーグルトに沈む苺 やさしき死などあるはずもなく
杉崎 恒夫 『食卓の音楽』 「四角い食卓」 P32
久しぶりに読んでいた歌集から。(苗字は「崎」の字で代用しています。)
白いヨーグルトのなかに赤い苺。食卓でのあるシーンを描きながら、下の句では「死」のイメージにつなげています。
ひとつの器のなかに存在する、ヨーグルトと苺。 「苺」という鮮やかな色味の物体が、なんだか生命の象徴のようにも思えます。
「死」がもつ酷薄さや残酷さを作中主体は否定しないし、隠しもしない。ただ淡々と見つめている感じ。
「あるはずもなく」と言いさしの状態にされた結句で、読んでいる側の気持ちも中ぶらりんになる。
杉崎氏の描く世界は、あくまで目に見える日常の範囲でありながら、想像力による飛翔が心地よかったなぁ。