波と手紙

小田桐夕のブログ。好きな短歌について。

一首評「あぢさゐ」

ほそく降るあしたの雨へあぢさゐは青すみとほる窓を開けたり

 *開けたり=あけたり

河合育子「いのちの起源」『春の質量』P12

紫陽花のきれいな季節です。雨の日に出かけるときについ見てしまう。

 

紫陽花の開花の瞬間をとらえた歌。美しい青色の紫陽花です。紫陽花の花…と言っても、実際は萼片らしいけど。

 

とにかく、ひし形に近い形の装飾花の花びらが、四弁くっきりと開いているのでしょう。しかも朝の細い雨に向かって。繊細な雨のなか、咲きはじめの紫陽花。

 

開花の様子を「窓を開けたり」としたことで、内側から外側に向けて開け放たれた解放感や広がり、植物のエネルギー、みずみずしいハリのある青色、紫陽花のボリューム等のイメージが広がります。

 

咲き初めの花には見惚れるようなハリや生命力があります。河合さんの歌集にはいろんな植物や動物が出てきます。この歌も身近な生命をとらえた歌です。