朝の陽に洗われて立つマヌカンの裸身の裡なる闇にも秋は
澤辺 元一「秋」 『晩夏行』
塔の選者であった澤辺さんが亡くなったのは、今年の2月。
「塔」9月号には気持ちのこもった追悼特集が組まれていました。
それがきっかけで『晩夏行』を手に取ってみました。
挽歌が多い歌集ですが、季節や景色を詠んだ歌にも印象深いものがあります。
この一首では、店頭でまだ衣類を着ていないマヌカンを見かけたのでしょう。
「マヌカン」のほうが音の響きのせいか、マネキンよりも優雅でまろやかな感じ。
朝の陽の光だから、「洗われて」というすがすがしい言葉が生きてくる。
衣類をまとっていないマヌカンのつるんとした質感を思いうかべて読んでいくと、「裸身の裡なる闇」へと思考が及ぶ。
なかなか見ることはないだろう、マヌカンの内側の黒々とした闇の部分にもやってくる秋。
爽やかな秋の朝の陽からはじまって、一転、しずかな物体の内側の闇へ。
くるっと視点を変えることで、秋の断片を切りとっています。