波と手紙

小田桐 夕のブログ。塔短歌会に所属。  ゆふぐれはあなたのなかに沈みゆくとほき国だと気づいてしまふ

江戸雪 「今日から歌人!」

久しぶりに短歌の入門書を読みました。

 

「今日から歌人!」は、塔の選者である江戸雪さんによる書籍で「誰でも画期的に短歌がよめる 楽しめる本」という副題がついています。

 

 

最初は短歌の入門書が頼りだった

 

私はカルチャーセンターの短歌教室とかに通ったことがなく、短歌を始めて間もないころは、数冊の入門書を片手に歌を詠んでいました。

 

(なぜか私について「某氏の短歌教室に通っている」という設定(?)にされていたことが一度あるんですが、あれ、なんだったんでしょうね・・・・)

 

「今日から歌人!」を読みながら、初心というか、最初のころの手探りの気持ちを思い出していました。わたしにとっては、数冊の入門書と試し書きのノートが、原点みたいなアイテムです。

 

今年の私は、すこし短歌に行き詰ってしまった感があったので、久々に入門書を読みたくなったんだと思います。

 

「言葉に敏感になる」で得られること

 

この本のなかでもっとも要になっているのは、第1部「言葉に敏感になる」だと思います。

 

ひとつの単語にもいろんな感情や温度があることや、見たままを詠んだだけでは作品にはならないことなど、押さえておきたい基本や姿勢が最初に書かれています。

 

本書のなかでは、江戸さんが本当に初期のころに詠んだ作品も含まれています。一首のなかに込めた気持ち、削った言葉。出来上がるまでにどう考えていたのか、なにを伝えたかったのか。

 

完成までのプロセスを明かしてくれるので、参考になります。(種明かししてもらっているみたいで、すこし悪い気もするのですが)

 

ベランダに耳ふうわりとうさぎいてわたしは今朝の街をみおろす     江戸雪     「今日から歌人!」P45

 

私がこの歌を最初に読んだときの感想を書いてみます。

 

作中主体はベランダに出ていて、うさぎを抱っこしているシーンだと思いました。自分が飼っているうさぎなのかもしれないし、そうでないかもしれない。

 

「耳」という、うさぎならではの特徴に焦点を絞っていることで、他の要素は大きく遠ざかる。手元にいるうさぎという柔らかい生き物と、「わたし」からは距離感のある街全体の広さや空虚さみたいな感覚の対比を感じました。

 

実際にはご友人宅のうさぎだったらしいし、抱っこしていたわけでもないそうですが。

 

実際の出来事をベースにしていても、どこを残して、どこを削るのかでまったく違った一首ができるでしょう。

 

短歌の文字数は31音であるため、詰め込み過ぎると窮屈になり、ポイントを絞らないと散漫になってしまいます。私も短歌を始めた頃はそのあたりの加減がまったくわからず、いろいろ失敗しながら作ってきたな、と思い返していました。

 

言葉はいつも使っているから、簡単に扱えると思ってしまいがちだけど、短歌という「作品」に仕上げるのには、いつもと同じ感覚のままでは不十分。

 

「簡単かな」と思って作り始めてみても、しばらくすると気づきます。語彙の少なさ、文法の知識のなさ、ステレオタイプな思考、発想の貧弱さ・・・。

 

短歌は短くて簡単そうに見えながら、じつは難しい。

 

でも、いままで見えていた世界をもう一度捉え直すことができるのも、絵や写真や短歌など、創作の面白いところです。

 

詠んでいて自分のなかから出てきた感覚に、自分でびっくりすることもあります。自分のなかに深い井戸を掘るみたいで、すこし怖いけど知りたい、という気持ちが続くものです。

 

短歌を詠むようになって、いままでなんとなく使ってきた「言葉」で、自分なりにとらえた世界を再現できることが可能になったと思うのです。

 

短歌入門書を改めて読んでみて思ったこと

 

私はいい作品ができなくて行き詰ったときには、数冊の入門書と古典辞書や文法書、あとは好きな歌集を読んでいました。失敗しては何か読む、そしてまた歌を作るの繰り返しが今につながっています。

 

今の私は、ずっと手探りで短歌を作ってきて、ある程度は「自分の歌風」みたいなものが見えてきたくらいの段階です。

 

短歌の入門書を読んでいると、なんだか新鮮な気持ちに戻れます。「作る」というプロセスが苦しくてもどこかで楽しいから、なにかを作っているという感覚を、入門書を読みながら再確認できました。

 

「今日から歌人!」のなかには短歌の技法ももちろん、解説されています。多くの短歌を参考に引きながら、どこが優れているのか、解き明かしてくれます。短歌の評を書きたい人にとっては、批評の参考にもなるでしょう。

 

ただ私にとっては、本書のなかでは「作品を作るときの姿勢」という部分が、最も印象に残る部分です。

 

どんな風に言葉に向き合って短歌を詠んでいくのか。ちょっと迷っていたので、この本は江戸さんからのヒントみたいです。私にとってこの一冊は、いまが読んでおくべき、いいタイミングだったのでしょう。迷ったときは、最初のころの気持ちに戻ってみるのも大切です。

 

短歌ってすぐ詠めるけど、奥が深くて、難しい!でもこれから先も、ずっとずっと続けられるといいな。また新しい気持ちでいろんな作品に触れ、自分でも詠んでみたいです。